らき☆すた
□かくし味
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こう「ごめんねー!急に手伝わせちゃって」
机に向かっていたこうがくるりと振り返って、頭を掻きながらバツが悪そうに言ってきた。
やまと「別にいいけど‥‥もう少し計画立てて出来ないの?」
今回が初めてって訳じゃないし、もう慣れてるけど、どうしていつも勢いだけで乗り切ろうとするんだろう。
こう「ほらほら!?こういうのって『閃き』で描いて行くものじゃん!計画立てて、あ〜だこ〜だよりも『勢い』を大切にしてるんだッ。だから予定立ててもその通りには、なかなか上手くいかなくてさッ!あははっ!」
やまと「はあああ〜〜〜‥もうわかったから口よりも手を動かして」
深い深い溜め息を吐いて、原稿に描かれた可愛らしいキャラクターに指定されたトーンを貼っていく。
私は今、こうの家で同人誌の仕上げを手伝っている。
(どうしてこうなっちゃったんだろう?)
手を止め、壁にかけられた時計をボーっと眺めながら数時間前の学校での事を思い返す。
ーー桜陵学園放課後ーー
こう「や〜まとっ!」
やまと「な・なによ‥?!」
後ろからいきなり抱きつかれて思わずキョドってしまう。
こう「この後、暇だよねッ!?」
やまと「人の予定を勝手に決めつけないで。‥まぁ、時間はあるけど‥」
こう「おいしい雪見大福の店、知ってるんだけど一緒に行かない?!」
やまと「雪見大福は何処のお店でも味は変わらないわよ…とりあえず少し離れて」
こう「じゃあ、決定っ!奢るよー!!」
やまと「ちょ・ちょっと、人の話をちゃんときいてー‥ぁぁ‥」
そのまま手を握って駆け出すこうにされるがまま引っ張ってこられてーー‥気付けば軟禁、と。
私は天井で煌々と明かりを零す電灯に、ゆっくりと視線をたゆらせる。電灯は休む事なく課せられた使命を全うし続けている。
(何、頑張ってんのよ)
頭の後ろで腕を組みつつ、自分自身を少し皮肉ってみた。
こうとは幼なじみで、高校までずっと一緒の学校に通っている。
腐れ縁というヤツだ。何かある度に泣きついてきて、こっちの意思なんかほとんど無視。自分の希望だけを押し通す。
(ん?‥希望?むしろ野望ね)
そんなこうだけど‥頼られると嫌とは言えない。面倒でも付き合ってしまう。何でだろう。
目をそっと閉じた。
今日だって、私、何にも悪くないよね‥。いつも通りに学校行って、いつも通りに授業うけて、いつも通りに帰ってたハズ…なんだけどなぁ。
誘拐魔に逢うまでは。
これって裁判に持って行けば勝てるんじゃない?
えっとぉ‥拉致監禁に強制労働‥。と、言っても嫌なら断ればいいだけの話。それが出来ないから困ってるんだけど。
やまと「はぁ〜〜」
溜め息をひとつつく。
やめた。愚痴言ってても始まらない。今、願うは一刻も早くこうの野望を成し遂げて、成仏してもらうだけ。
組んでいた腕を机上に下ろし、トーン貼りを再開する。
とにかく終わらせる。そして、悪魔から解放された天使は晴れて‥‥晴れて?‥あれ?‥何か忘れてる‥ような??
やまと「‥‥‥あ‥」
こう「どしたッ!?何かマズった??!」
やまと「詐欺罪も追加」
こう「・・・えーとぉー、やまと?話が見えないんだけど」
やまと「こう、言ったよね。雪見大福おごるって」
こう「うん!言ったよ」
やまと「まだおごって貰ってないんだけど」
ニカッと、こうは笑顔で部屋の外を指差しながら
こう「ふふふ‥安心してッ!ヘブンズ・ドアーの向こうにある、電気式ツールボックスを覗いてごらん」
やまと「‥‥冷凍庫ね。というか普通に言った方が早いんじゃ‥」
こう「ダメダメっ!ネタの種は普段の何気ない会話から芽を出すんだから!」
やまと「混乱の種が芽を出さなきゃいいんだけど」
こう「あははー‥やまとは容赦ないなぁ。食べていいよ〜。時間も時間だし、そろそろ休憩にしよっ!」
私はこくりと頷くと立ち上がり、背伸びと欠伸をしつつ、部屋とキッチンを隔てる扉‥なんとかドアーを開いた。部屋から零れ出た光で、ほんのりとキッチンが浮かび上がる。部屋の中とは違って、ひんやりとした空気が私を包む。
灯りに照らし出されたその先に私の希望が待っていた。
(執筆中)