らき☆すた

□おくりもの
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陵桜学園3年B組
昼休み―ー‥

やあぁ〜っとお昼。
お腹がすいたぁー。
昨日は帰ってからギャルゲー、マンガ、アニメ、そしてネトゲー‥寝たのは明け方4時だったっけ?

わたしの辞書に『勉強』などという邪悪な文字は無いのだよっ!!
そんな感じだったから、今日は寝坊。もちろん遅刻。
おかげで朝ご飯食べそこねた。うぅー。

朝からずっと空腹という名の魔王とバトってばかりだよ‥。
だがしかぁーし!
長き因縁の戦いにもついに終止符をうつ時がきたのだよ!
さあっ!!
今こそ立ち上がるのだぁ〜!!
ジーク、こなた!
ジーク、こなた!

かがみ「‥こなた?そのガッツポーズは何なの?」
こなた「ぬぉっ!おのれ、かがみぃん‥気を消してわたしの後ろをとるとは!」

不覚、あまりにも不覚っ!
妄想に浸って、かがみが近付いてきてたのに気がつかなかったとは。
こやつ‥また腕をあげよってからに。

つかさ「こなちゃん、すごくかっこよかったよぉ〜♪」
かがみ「まぁ、どーせ何かのゲームでしょ」
こなた「違うよー。アニメだもんっ!」
かがみ「そんな事よりちゃっちゃとお昼にするわよ」

ううぅ‥流されたっ。
でもお腹は減ってるし、素直にお昼にしよ。
わたしは持参したコロネとコーヒー牛乳を取り出し、さっそく頬張った。
ぱくっ。
ぺろぺろ。
もきゅ、もきゅ。

かがみ「ねぇ、こなた。今更だけどー」
こなた「ん?なぁに?」
ぱくっ。
ぺろぺろ。
もきゅ、もきゅ。

かがみ「あんたよくコロネばかり食べてて、飽きないわね;」
こなた「好物だからねぇ〜♪」
かがみ「いゃ、限度があるだろ!」
ぱくっ。
ぺろぺろ。
もきゅ、もきゅ。

うん?
どうしたんだろ?
つかさが上目づかいにチラチラとみてるけど。
何か言い辛い事でもあんのかな。

つかさ「ね、ねぇねぇ‥こなちゃん。たぶん、きっと、食べ方変えた方がいぃとおもうよぉ〜」

うっ!
さり気なくわたしを全否定した!
つかさにまで突っ込まれるとは。まいったね。

こなた「つかさ〜?そこに愛はあるのかい?」
つかさ「えっっ!あ、愛?!ええっと‥!うぅんと‥!ぁぅぁぅ〜」
かがみ「つかさ?ほっといていいわよ」
みゆき「でも、泉さんらしい食べ方ですね。あっ!チョコが垂れてきましたよ!」
こなた「ぬふぉっ!!」
ぺろぺろ。

みんなとの楽しいひととき―ー‥
それはわたしにとって
コロネのチョコの様に甘く、大切な時間。
来年はみんな卒業して、それぞれが違う新たな路を歩むだろう。
だからこそ、みんなといられるこの時間を‥1分1秒を大切にしたい。
面白可笑しく、少しでも永く。

卒業まで、約半年―ー‥

どうか
このままみんなにはバレないように‥。

(うん?‥あぁ。お昼休み、あと15分か…)

わたしはみんなより一足先にコロネを食べ終えコーヒー牛乳も飲み干し、幾分寂しくなった口元にストローをくわえて話をしていた。

楽しい時間はすぐに終わる―ー今までも。

それは

―きっと、これからも。

みゆき「…それ以降、今のような意味を持つようになったと言われています。これには他にも諸説ありますが、現代ではあまり使われなくなりました」
つかさ「ふぅ〜ん。そ〜なんだぁ〜☆」

まだまだお昼休みのおしゃべりが続く中、わたしはそっとポケットに右手を入れて用意していた『粉薬』を取り出す。

……ふぅー‥。

みんなにはバレないように小さな小さな溜め息をひとつ吐く。

右手に握られた『粉薬』は白く美しい。
でもそれはわたしの手に、肩に、そして心にズシリと確かな重さになって伝わる。

そんな一瞬の、ほんの僅かなわたしの悲壮感をかがみは見逃さなかった。

かがみ「こなた?何かあったの?」
こなた「ーほぇ?」

いきなり話かけられたので思わず間抜けな声を出してしまった。

かがみ「なんか最近、元気ないわね。溜め息も多いし」
こなた「ぅ〜ん。だってさぁ。もうちょっとしたら中間テストじゃん?ただでさえネトゲーや深夜アニメで忙しいのに、ホント困るんだよねぇ〜」
つかさ「ねぇ〜、困るよねえ〜;」
かがみ「あんたたち、受験生だって事少しは自覚してくれ」

とっさにしては上手くごまかせた。
かがみは油断できない。
ちょっとした変化も敏感に感じとる。

わたしは噛みすぎてヨレヨレになったストローを紙パックに差し込み、それと一緒に粉薬を手に握りしめ、席を立つ。

こなた「さてと‥」
みゆき「泉さん、今日もお薬ですか?やはりまだお体の具合が…?」

みゆきさんは右頬に手をあてて、心配そうな顔だ。
つかさは不安そうな瞳でわたしを見つめる。

かがみ「あんたの『神経痛』って、なかなか良くならないわね。大丈夫なの?」
こなた「みゆきさん、ありー♪神経痛っていっても軽い頭痛だから心配しなくても、おk♪じゃぁ、薬飲んでくるよ」

かがみがまだ何か言いたそうだったけど口を開く前に、わたしは教室を飛び出した。

廊下を走り抜け、角を曲がり奥にある洗面所にたどり着く。
ここは一般教室からも遠く、奥にあるという事も手伝い、影になっていて人目につきにくい。
まして、お昼休みなどは尚更だ。

はぁ‥はぁ‥

わたしは洗面所の鏡の前でしばらく息を落ち着けた。

そして俯き

ふふ‥‥っッ!

と、はにかんだ。
瞬間―ー‥目に涙がこみ上げてくる。
限界を超えた涙はこぼれ落ち、洗面台へポタタッと落ちる。

悔しくて
悲しくて
辛くて

こなた「ぅ‥‥ううっ!」

やがて小さな嗚咽をあげ、わたしは両肩を揺らす。
どんなに我慢しても、平静を装っても‥

駄目。

高ぶった感情にまかせ、手に持っていた紙パックを握り潰し床にたたきつけた。
紙パックはコーンッ!という音と共に床で跳ねて、静止する。

開いた手のひらに在る物が目覚めぬ悪夢という名の現実を突きつける。

みんなの心配する顔、そして、そんなみんなに嘘をつき続けているわたし。

それらが鋭利な刃となって胸をえぐる。


(白く美しい粉薬『エンジェルパウダー』…か)


わたしが命名した、この薬の名前。
聞こえは可愛らしいけど、

―ー‥麻薬だ。

ただ痛みを抑えるだけの物。
ただ…それだけの物。






わたしの病名一ー‥



『悪性リンパ腫』
余命8ヵ月‥ー―






1ヶ月前に、知った事だった。

体中に転移していて、気付いた時には既に手遅れと病院の先生から言われた。
抗がん剤治療に専念すれば延命はできるとも。

死の宣告をされた時、わたしの思考はフリーズした。
周りの声は何も届かない。
その場にわたしが居るのか居ないのかも、わからなかった。

どう足掻いても
もう、助からない。


わたしは
どうすれば…いい?


病院から帰って自室で、ただただ泣いた。
わたしの部屋なのに知らない部屋みたい。
お父さんも泣いていた。

学校を3日間休んで出した一つの答え、それは


みんなと学校を卒業する。
それがわたしの生きた証となる。


いつもと変わらないわたしを演じよう。
みんなには余計な心配をかけたくないし、悲しんで欲しくもない。今は大切な時期なのだから。
だから絶対にバレてはいけない。

ただ‥先生と、‥ゆーちゃんだけには、ありのままを話しておいた。
ななこ「‥泉が決めた事やし、ウチは何も言わん。せやけど‥せやけどっ!」

先生はそう言ってわたしを強く強く抱きしめて

ななこ「すまんっ!!ウチ、こんな事しかできへんっ!!」

そう言って泣いた。


ゆーちゃんはすでにお父さんから話を聞いていたみたい。

ゆたか「お、おねえ‥ひっく‥ちゃ‥ん‥ひっぐ‥」

顔にあてた両手からポロポロと大粒の涙を零し、嗚咽をあげていた。
こんなちっちゃな体にあまりにも辛い事実を突きつけられて、今にも潰されてしまうんじゃないかって思うといたたまれない。
そんなゆーちゃんの姿が痛くて、わたしは両肩に手をまわし優しく抱いた。

こなた「ごめん‥ゆーちゃん。でも‥わたし決めたんだ‥だから、ごめん」
ゆたか「おねぇーちゃーん!!」

そう叫んで、ゆーちゃんはわたしの胸に顔を擦り付け、堰を切った様に大泣きをする。
固く握った両手を、わたしの胸の上で何度も何度も叩いていた。


もう、これ以上、誰も悲しませたくは無い。

わたしはその時に決心を強く固めた。


‥ー―わたしがそんな事を思い出していると自然に涙が止まっていた。
洗面台の鏡に映るもう一人の、『わたし』
その目は少しだけ赤かった。

キーンコーンカーンコーン‥

こなた「あ‥じゃないよぅ!!やばい!!」

予鈴だ!
もうそんな時間?!
急がなきゃ!
手の中で出番を待ちわびていたエンジェルパウダーを慌てて飲み干し、来た道を教室へ向かって駆けた。

(今はとにかく目の前にある現実だけを全力でこなそう)

泣いてたって病気は‥治んないんだし。
だったら、少しでも思い出作りに励んだっていいよね。


つかさ「あ〜。こなちゃんだぁ〜。おかえりなさ〜ぃ」
こなた「待たせたなっ!つかさ!」
かがみ(‥?)
みゆき「かがみさん。泉さんも戻られた事ですし、そろそろ教室に戻られた方が‥」

みゆきさんがそう言ったので、かがみの方に振り向く。
かがみはわたしを怪訝そうに見ていた。

こなた(え?なになに?)

みゆき「かがみさん?どうかされましたか?」
かがみ「え?あッ、そ、そうね‥じゃあ、また後でね!」

我に返ったかがみは慌てて自分の教室に帰っていった。
そのかがみが一瞬立ち止まった様にも見えたんだけど‥気のせいかな?



‥ー―そして放課後



わたし達は帰路についていた。
途中の駅でみゆきさんと別れ、今は電車に揺られている。
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