青と赤


□第九章
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ミグトラは眉間にしわをよせた。

「貴様……今、キノコと言ったか?」

「空耳だよ」

ウィルは悪意のこもった笑顔をミグトラに向けながら言った。

「まぁ……そんなことは、どうでもいい」

腕を組むとミグトラはふるふると大きな頭を振った。
メディは気遣うように血の繋がらぬ父を見た。ウィルはそれを無視すると言った。

「あー、誰だったかなぁ……薔薇騎士のあの人にちゃんと報告しておいたよ」

「エレノか、うむ……よくやってくれた」

「約束、覚えてる?僕が伝言役引き受ける代わりに……あれを見せてくれるって」

「私は約束を破らない、お前の父親と違ってな」

メディと火依にここで待つようにミグトラは言うとウィルを奥の円形の部屋へと連れて行った。



その部屋は地下とは思えないぐらい明るかった。
それは、部屋の中心にある水晶玉のせいだ。
ウィルとミグトラはそれに近寄った。

「これに予言を封じ込めて壊す」

期待のこもった口調でミグトラが言った。

「あんたは予言の存在の意味を知ってる?」

「知っている。予言とはこの世界、全てを平和にするものだ」

ウィルはその答えに酷く失望した。
暗い顔をしたウィルに対して嬉しそうな表情をすると鼻の下の短い髭をミグトラは撫でた。 

「本当に、そう思ってるんだ?」

「ああ、そうだ」

「僕は違うと思うんだけど……」

ウィルはあの塔からここにくるまでずっと握り締めていた、青い薔薇の花びらを見た。
先ほどより、おとなしいウィルにミグトラはため息をついた。

「お前の思っている予言と私の予言は違うというのか……」

ウィルはわざと無視して答えなかった。

「それは、考え過ぎだ」

違う、予言は世界の平和の為にあるんじゃない。
予言は……人と人とを繋ぐ為にあるんだ。

「可哀想だな……そうとしか、考えられなくなったのだから」

僕は可哀想?そうだ、そうかもしれない。
だって、予言は僕と僕の大切な人と大嫌いな人の為に創られたんだから。
何か喋っていて、うるさいミグトラに向かってウィルは言った。

「黙れ、それ以上何か言ったら……」

ウィルの投げた、刃物をミグトラは軽く避けた。

「危ないな」

「上にいるよ……リトが来ると思うし、会いにいく」

それだけ言うとウィルは部屋から出て、階段を登り始めた。ミグトラや火依やメディが後ろから見てくるのが分かる。

「お前と私は同じだ。たがら、お前の苦しみを理解してやれるのは私だけだぞ……まだ、あんな娘を必要とするのか?」

階段を登っていたウィルが立ち止まった。まるで石になったように動かない。

「可愛い妹を手に掛けるのは嫌かもしれんが、それは予言を水晶に入れる為に必要なこと」

「お前と僕は違う……それに」

ウィルは小さな声で言った。

「それに、リトは妹じゃない……だから、この気持ちは悪いものなんかじゃないよ」

自分自身に言い聞かせるように言い、いつもより感情的な言葉を口にしてしまう。ミグトラにリトの存在を悪く言われたからだ。



(リト……僕が幸せにしてあげるからね)




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