青と赤


□第八章
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「ようやく、王都に着きましたわ」

エストアが明るい表情で告げた。同時に秋花とオズワルドはその場に座りこんだ。

「ああぁー!疲れたぁ!」

リトはこっそりエストアを盗み見た、少し苛立っているような表情だ。冷たい風がヒューという音と共に吹く。リトは寒いと思いながらも、オズワルドと秋花の腕を掴んだ。

「兄さん、秋花……ほら、立って」

「急がないといけませんわ」

エストアが厳しい口調で言うと2人共、嫌々動きだした。

しばらく歩き、王都の入り口の大きな門を潜り抜けるとさまざまな店や民家が立ち並んでいるのが目に見えてきた。いつも通りに賑わっている。

噴水近くまで歩いて行くと、アルフが遠慮がちに声を掛けてきた。

「皆に聞いて欲しいことがあるんだけど……」

「なに?」

リトが不思議そうに聞く。

「こんなに大人数だと色々と不便だし……何より目立つから、二手に別れないか?」

それを聞いたリトも、確かにそうだと思っていた。王都に帰ってくるまでの短い期間で仲間はたくさん出来た。嬉しい半面、この人数で行動するのはいろいろと大変だった。今まではそれでもよかったが王都では、大人数で歩いていると怪しまれる。そして、人数が多いことを我慢できずにいたアルフは言ったのだ。
エストアもどうやら賛成らしい。手を胸の前で握ると目を輝かせて言う。

「アルフの言う通りですわ、二手に別れましょう!」

「……だが、どうやって別れるんだ」

腕を組み仏頂面のアステルが言った。

「王城へ行き、王とミグトラとお話をする人達と王都の状況を見て回る人達とに別れればいいのです」

「じゃあ……誰がどっちにすればいいの?」

秋花は暇そうに髪をいじりながら聞いた。アルフが落ち着いた面持ちで言った。

「僕とエストア姫と蓮で王城へ向かう」

「だったら!予言を持ってる私も……」

間髪入れずにリトが言った。アルフは急に顔を暗くする。

「リト、君が王城へ行くのは逆に危ない……ミグトラや王が予言を持つリトに何をするか分からないだろう?だから、君は王都の様子を見ていてくれ」 

「……うん」

小さい声で返事をすると、アルフは安心したようにリトの頭を撫でた。

「予言を持っている君だけが頼りなんだ」

「わ、わかったわ……」

リトは恥ずかしそうに身を縮めるとアルフの手から逃げた。

―――‐‐


結局、エストア、アルフそして蓮以外は街を見て回ることになった。
3人が王城に向かい歩き出そうとするとオズワルドが叫んだ。

「エストア、待ってくれ!」

急に呼ばれてエストアがびっくりして振り向いた。
オズワルドは驚いた表情の彼女の所へ走ってきた。

「エストア……まだ怒ってるか?」

どうやら、あの時の予言でのことをまだ気にしているらしい。エストアは深呼吸すると、オズワルドの手を握った。

「……もう、怒っていませんわ。私がそんなに嫌な顔していますか?」

オズワルドは顔を赤くして困ったように首を横に振った。

「そうでしょう?だから、気にしないでくださいな」

「…………」

何か言いたげなオズワルドの手をエストアは離した。そして、オズワルドが肌身離さず身につけている黒い石のペンダントをエストアは見た。今まで気にしないでいることにしていたが、その石にゆっくりと触れ言った。

「私も頑張りますから……オズも自分の運命から逃げずに頑張って下さい」

「えっ?あ……わかったよ!」

クスリと笑うとエストアはオズワルドに手を振りながらアルフと蓮と共に人ごみの中へ消えて行った。

―――‐‐

まだ、エストアが消えた人ごみの方を向き立ち尽くしていた。

「兄さん?大丈夫……よね?」

リトは遠慮がちに兄を呼んだ。

「あ、あたり前だろ。ってか……あんま、人の心配ばっかするなよ」

恥ずかしそうに歩きだした。
リトも急いでついて行く。隣にセルレイムが近づいてきた。

「オズワルドって、優しい人だね」

そして、セルレイムはリトにだけ聞こえるように耳元で言う。それに、リトは小さく頷いた。





街をぶらぶらと歩いているとあまり大きいとは言えないが貴族の屋敷が見えてきた。

「こんな屋敷ってあった?」

「ここ……オーランド家の屋敷だ」

アステルが小さな声で言う。オーランドと聞いてリトは反応した。

「ミグトラ・オーランド……?」

口に出してその名を言うと、奥底から怒りがふつふつと湧き出てくる。目をギュと瞑り、その怒りを押さえた。

「あんな人が将軍になるんて……たとえ、予言のことだったとしても絶対におかしい」

「同感!」

リトの肩を秋花は叩くと、そう言った。

「そういえば……姉さんがここにいるのよね」

秋花がはっと息を呑んだ。リトの言葉にオズワルドが呟いた。

「あいつ、変な奴だったけど……ちょっと心配だよな」

オーランド家の屋敷は静けさが満ちていた。聞こえてくるのは波の音だけだ。屋敷の後ろには広大な海が広がっている。リトは姉をとても心配した。そしてもしかしたら、と最悪の状況を考えてしまう。 

「姉さんを連れて帰らないと……」

リトが唇を噛みしめて、屋敷の門を潜ろうとした。
それをアステルとセルレイムが腕を掴んで止めた。

「リト!?」

「ダメだよ!」

リトは止められたことにムッとして大声を出した。

「やめてよ!!どうして?どうしてとめるの!?」

アステルの後ろにひっそりと立っていたトゥナがおどおどと言った。

「オーランド家は王に守られております。乗り込めば、必ず……王の兵がやってきて皆、殺されてしまいます」




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