青と赤
□第一章
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リトたちは馬車に揺られてやっと城に着いた。馬車から降り父について城の中に入った。
「さてお前たち、これからは自由行動にするが家で言ったように……ここは」
「王様や貴族がいるので礼儀には気をつけなさい、だろ?」
オズワルドは大きな声で言った。
「そうだ。では、後で……ミグトラには注意していなさい」
父と別れたあとリトたちは自由にパーティーを楽しんでいた。アルフは貴族たちとこれからの国について語り合っている、オズワルドは食べ物ばかり食べている。野菜が大好きな彼は野菜を皿にたくさん乗せていた。ウィルはというと、たくさんの貴族の娘たちに一緒に踊ろうとせがまれている。レインはどこにいるかわからない。
「暇……」
リトだけ、人ごみから離れた場所で立っていた。リトはだいたいこうなるだろうと予測はしていたがさすがに悲しくなってくる。
「…………」
きゅと口元をかみしめた。
「リト?」
娘たちをやっと振り切ったらしきウィルがリトに近ずいてきた。
「ウィル兄さん」
リトの声は震えている。ダメだと思いながらも兄を見ず横を向いた。
「どしたの?やっぱ、ここが……嫌?」
「嫌じゃないよ、ただ私だけ……楽しんでないもの」
「リト……」
兄の優しい声にリトは緊張の糸が切れてしまい泣きはじめた。泣き止まないリトにウィルが言った。
「じゃあ……僕と……踊らない?」
リトはびっくりして兄の目を見つめた。うれしかったが貴族の娘達が自分を指差しひそひそ話しているが聞えて顔を真っ赤にして嫌だと言ってしまった。
「兄妹で踊るなんて恥ずかしくってできない」
しまったと思った時には遅かったウィルはきずついた顔をしている。
「ごめんなさい……」
そう言って走って人ごみの中に行った。
さっきまで、椅子に座って料理を食べていたオズワルドがウィルと共に広間の隅にいた。しかもウィルは無表情で腕を組んでだまま立ち話し掛けても返事をしない。
「なぁー、ウィル」
返事はかえってこない。
「聞いてる?」
「何?」
やっと、口を開いたが冷たい物言いに少し身をすくませた。一緒に育った弟だがオズワルドは彼に苦手意識を持っている。たまにみせる冷淡さがまるで刃物のように鋭いからだ。ただオズワルドが知っている範囲ではリトや母親だけにはそれを見せたことがないらしい。理由はどうにせよ兄としていつまでもおびえているわけにはいかない。
「いや、何、じゃなくてどしてここに?」
「ここに居たらダメなの?」
ウィルはこっちを見ようともせずに鋭く言いはなった。
「あー、お前」
オズワルドは顔をしかめて言った。
「お前、さっきリトと話したあとから変だぞ……なんかあったのか?」
ウィルのまとっている空気が変わったのがオズワルドでもすぐにわかった。
「別に、なんでもない」
オズワルドはしかめっ面のままでウィルを見た。
「はぁ……俺はお前が何を考えようがなんとも思わないけどよ、悪いことだけは絶対に考えるな」
それを言い終えると手に持っていたチキンを食べ初めた。
ウィルはゆっくりとオズワルドの顔を見た。そして小さな声で言った。
「嫌い……嫌い……」
オズワルドはピタッと食べるのを止めた。
「なんか言った?」
「嫌いって言った。オズワルドなんか嫌いだよ……」
「お前、いきなり……何を―」
ウィルは先ほどとは違いしっかりと一言ずつゆっくりと言った。
「大嫌い」
オズワルドが何も言わないのを確認するとウィルはそオズワルドを一人にして、大広間から出て行ってしまった。
「ウィル……」
呆然としていたオズワルドだが今あったことを忘れようとまたチキン食べ初めた。
―――‐‐
ウィルは一人で長い廊下を歩いていた。少し寒いし、おまけに薄暗い。
(静か……)
廊下はウィル以外に誰もいなかった。当たり前だ、今は皆広間で踊っているのだから。ウィルは大広間に続く廊下を見る。
「バカが多くって嫌だよ……ね、リト?」
近くいるはずのないリトに話しかけてみた。返事がかえってこないことはわかっていたが寂しい。いつからか、ウィルはリトに思いをよせた。妹であるから今までは我慢していたがあの手紙を読んでからはもう自分の欲を押さえきれなくなっていた。また心がリトに引きよせられた時、後ろから人の気配を感じて振り返った。そこにいたのはミグトラだった。あの手紙を書いた張本人だ。
「広間にいたはず……」
ミグトラはおどけてみせた。
「先ほど連れを、外まで案内していた……そういうお前はウィル・セイスか?」
「だとしたら?」
「手紙にも書いていたと思うが……お前にオーラ王妃の予言したことを我々とともに阻止してもらいたい」
オーラ王妃とはこの国の元国王シュール二世の第一王妃としてもたくさんの人にしられていたが、彼女は死ぬ前にこの世界全てを巻き込むであろう戦いの予言をしたことでも有名である。ウィルはそのことを知っていたので
「なんで僕が、そんな面倒なことしないといけないの?」
と聞いた。
ミグトラは微かに笑う。
「前に予言を阻止する為の内容の手紙を送っていたではないか……しかもそれを全て完璧に実行している」
「それが何か?」
「私はお前の行動力を見込んでのことなのだが」
ウィルは少し顔色を暗くした。
「他にも理由はあるよね?僕が……僕とリトもその予言に巻き込まれた哀れな人だからでしょ?」
ミグトラは眉をピクリと動かすとたしかにと頷いた。
「だが、あの子よりお前の方がいろいろと知っている、否、知りすぎているからな。私はお前に協力してもらいたい」
ウィルはふと目の前にリトの笑顔が浮かんだ。だがそれを振り払うとミグトラに頷いた。
「手伝うよ……予言を壊すためにね」
そして奇妙な約束を交わした二人は城をあとにした。
予言の書抜粋
『予言はこの世界の為に存在するだから絶対に壊してはいけない』