青と赤
□第一部 序章
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静まりかえった村を三人の少年少女が走っている。その中のひとりが走るのをやめて立ち止まった。
「もっと……ゆっくり走ってよ!」
すると一番前にいた少年も立ち止まる。
「バカリト、もう夜なんだぞ!?早く家に帰らないといけないんだ!」
リトといわれた少女はその言葉に怒って言い返した。
「オズワルド兄さんだって止まってるじゃないない!」
リトはそう言うとそっぽを向いた。オズワルドは妹の態度に腹が立って殴ろうとしたがそこに、もう1人がやっと2人の間にわって入った。
「オズワルド、やめなよ。リトだってずっと走ってたから疲れてるんだよ」
暗いせいか、疲れのせいかその少年―リトの兄である―ウィルの白い顔は青白く見える。弟に止められたオズワルドはリトを殴ろうとしていた手をゆっくりとおろした。
「だけどなウィル、今日はデインの誕生日なんだぞ!リトがかってに―」
オズワルドが言い終わる前にウィルは首を横に振った。
「もういい、おしまい。オズワルドもリトも、いいね?」
無理やりケンカを終わらせる、ウィル。オズワルドは納得いかない表情のまま前を向いて
「先に行ってるな……」
と言って走りだした。オズワルドの足音が遠ざかるのを待つとウィルはリトに話しかけた。
「リト、大丈夫?走れないんだったら歩いて帰ればいいからさ……行こう?」
そう言うと怒った顔をしているリトに手を差し伸べた。リトはやっと口を開いた。
「うん……」
そしてウィルの手を握って歩き初めた。リトは握っているウィルの手がさみしいくらい冷たいことに気付いたが何も言わなかった。言ってしまえば昔から傷つきやすいウィルを傷つけると思ったからだ。あえてリトはお礼を言った。自分は嬉しいんだと伝えるために。
「兄さん……ありがとう」
恥ずかしいのかウィルから返事が返ってこない。変わりに握っていた手の力が一瞬強くなった。その行動にリトは聞こえないように笑った。
いつもと変わらぬ兄のせいでリトは気付かなかった。ウィルが今、どれぐらい悲しみの淵にいるのかを。
―――‐‐昨夜、遅く帰って来た子供達はまだ寝ていた。静かにアディナは家事をはじめた。セイス家で一番最初に起きるのは決まって母アディナだ。
母は家族5人分の朝ご飯を作くり、家の掃除をして最後に洗濯物を干していた。そろそろ体力の限界がきているのだろうか行動が少し遅い。
「ふぅ……疲れた」
そう言って干そうとしていた洗濯物をかごに戻した。すると横から手が伸びてきて洗濯物を干し初める。
リトだ。
「あら、リトおはよう」
母はリトに笑顔を向けた。だがリトの顔は少し怒っている。
「母さん、前に私言ったでしょ……1人で家のことするの辛いんだったら手伝うよって……覚えてる?」
リトは洗濯物を干す手を止めずに言う。母の方は、そうだっけといいたそうな顔をしている。リトはため息をついた。
「言った」
「忘れたわ」
「どうして忘れるのよ」
「忘れってしまったのは仕方いでしょう。別に知らないフリしてるわけじゃないんだし……」
母は口を尖らせて言う。
「それに母さんはまだまだ若いわよ。まだ、1人でだってやってける……だから、母さんはあなたに―」
そんなことを言う母にリトは苛立ちを覚えた。そのせいで自分でも言いたくないことを言ってしまった。
「だって、うちの家は父さんいないから母さんが全部してる。わたしは母さんを手伝いたいの……」
しばらく、静かになった。母は決心がついたのかやっと口を開いた。
「リトあのね、うちが他の家と違うからってあなただけが、頑張らなくていいのよ辛くなったらちゃんと、話すからね。大丈夫、心配しないで」
リトは洗濯物を干し終わりかごを持って家の方に向って歩き初めた。母はそのリトの後ろ姿にむかって「リト」と呼びかけた。リトは立ち止まり振り「何?」と言う。母は苦笑まじりにこう言った。
「そろそろ、うちの家の男たち起こしてきてくれない?頼りにしてるよ」
リトは何も言わずにまた歩いた。かすかに笑みを浮かべて。東の空には、朝日が輝き初めている。また1日が初まるのだ。