青と赤


□第二部 序章
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「王!何故戦うのですか!?今までは話し合いで解決して―」

必死で問い質すセイレーンを手をあげて制した。

「私もそうしたかった!だが……ミグトラがどうしても許せなかったのだ」

言葉を発するたびに暗い表情になっていくヘンリー王をセイレーンは見ることが出来なかった。
王といっても人なのだ。
間違ったこともする。
だが、それをどう上手くやっていくかで良き王かは決まる。
まだやり直せると信じたセイレーンは王に聞いた。

「ミグトラを逃がした理由を聞かせて下さい」

「ミグトラは青の王族がここを攻めると教えてくれた……奴は教えたかわりに自分と自分の部下を無傷のまま見逃せと言ってきた」

「理由はそれだけではないはず……」

深いため息をついたヘンリー王は言った。

「自分はもう青と通じている自分が戻らなければ彼らはすぐに攻めてくる、だが自分が戻れば戦いの準備が出来るよう少し時間をやる……と言った」

驚きを通り越して怒る気にもならない。
完全に青の王族は赤の王族を嘗めている。
このことを冷静なセイレーンでもさすがに我慢することが出来なかった。

「王が戦うと言うのなら……私も戦います」

ヘンリー王は俯いた顔を上げるとセイレーンを見つめた。

「戦いは予言に書かれていたぞ……」

「構いません、何とかしますから」

ミグトラはこの国を壊すつもりだ。
予言に従わず滅ぶのを待つぐらいなら予言に従って戦う方がましだった。
本当はもう予言などいらないと思っていたのにとセイレーンは微かに胸の痛みを感じた。
そして、一番予言と向き合っているリトにはかわいそうなことをしたと思った。

(もう、二度と……同じことはしない)



―――‐‐

「落ち着いて下さい火依様!お願いします!」

「嫌です!」

火依は自分の近くにあるものを掴むと力任せに次々とスミレぶつけた。そして投げる物がなくなるとスミレに背を向けて座り込んだ。
元将軍だった火依はミグトラについて青の国へと来た。
だが純粋な赤の血筋の者の為、火依のこちらでの身分は奴隷以下だった。
ミグトラの力でなんとか居られるようなものだ。
今は新しいミグトラの屋敷でメディと自分の親衛隊と共に自由にしている。
火依の右腕ともいわれるスミレもまたそのうちの一人。
火依に絶対的な忠誠を誓っているスミレは主人が日に日に苛立っているのを見ていられなかった。
お優しいミグトラのことだ、火依が傷つかないようにしばらくここから動けないようにするだろうと考えている。ミグトラの考えは逆効果だ。火依に機嫌良くしてもらいたいスミレは主人の耳元で言った。

「火依様をここから出してみせます……行きたい場所はありますか?」

スミレの言葉でさっきまで機嫌の悪かった火依が急ににっこりと微笑んだ。そして、ゆっくり扇で窓の向こうの空をさす。

「ティアリス、あそこに行けば……素敵な出会いがあります」

「理由は―」

「私が行きたいのです。それ以上の理由などいりません」




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