青と赤
□第一部 終章
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泣き声に導かれリトとエレノは部屋にたどり着いた。すぐに目に入ったのは顔を押さえながら泣く女性だった。
リトは心臓が引っくり返ったような気がした。
おそるおそる幼い泣き声がするベッドへ目を向けた。
「姉さん……?」
レインが白い顔で目を閉じそこで眠りについていた。震える声で姉の名を呼んだが返事はない。
急いでベッドへ駆け寄った。
「姉さん?……うそでしょ……」
後ろからエレノが言った。
「レイン様は、もう……」
エレノの言葉を聞き泣き声も海の音も何もかもリトには聞こえなくなってしまった。
ただ理解したのは姉の死という辛いものだった。何のためにここへ来たのだったろうか。
泣き止んだ女性がリトにおずおずと話し掛けてきた。
「レイン様のお世話していたキカといいます、あなたは……リト様ですか?」
「……はい」
リトだとわかるとキカは赤ん坊を優しく抱き上げ、リトに渡した。
「レイン様とミグトラ様のお子様です」
それを聞いたリトとエレノは顔を見合せた。
ゆっくりと赤ん坊に顔を向けると、赤ん坊はニコニコと笑いかけてくる。
我慢していた涙が堪えきれず泣いてしまった。
レインはもういない、ミグトラもこの子を育てるかわからない。父と母のいないこの子はいったい誰が育てるのだろうか。
そう考えたリトの中に一つの決意が芽生えた。
たぶん、これはリトが、リト達が背負わなければいけないことだろう。
「この子……私が引きとって育てます」
「そう言うだろうとわかっていました……私からもお願いします」
キカは驚きもせずに答えた。ほっと一安心したリトにキカが慌てた素振りで言う。
「ミグトラ様、あの城での事件いらい……屋敷に見張りの薔薇騎士を残してどこか別の場所で身をひそめているんです」
「どこかはわからないんですか?」
「はい……あの!今は薔薇騎士はいませんがもうすぐ来るかもしれません……今のうちに赤ん坊を、ジュール様を連れて逃げて下さい……レイン様も一緒に」
リトはわかったと短く返事をするとエレノがすぐに冷たくなったレインを背負い部屋から出た。
だがリトは同じ場所から動かないキカが気になり立ち止まった。
「どうして、そこまで姉さんや……ジュールの為に―」
「……償いです、軽すぎるぐらいの償いなんです」
ごめんなさいと言う彼女にリトは何か言わなければと必死で言葉を探した。
きっと、リトが許さなければキカは永遠に罪の意識から逃れられないだろう。
罪を背負わせるのもよいのだろうがリトにはそれが良く思えなかった。
「キカさん、ありがとう……姉さんと一緒にいてくれて……」
はっと顔を上げたキカは震える声で礼を何回も言った。
その言葉を背にしてリトはまたこぼれそうになる涙を堪えた。
許すことも一つの罪だとはリトは知らなかった。
この後、キカがとる行動をリトは一生忘れることはない。
『許されれば罪からは逃れられても
罪悪感は消えない
それは一生の苦しみ
けれど私はそれが悲しくはない』
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