青と赤
□第十一章
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街の広場はいつもの活気はなく、静けさが満ちていた。
原因はリト達が起こした騒ぎの首謀者としてアスレナークがミグトラに処刑されようとしたことで赤の民の国王派と青の民のミグトラ派が冷戦状態になっているためだった。
「………」
一歩踏み出すたびにたくさんの視線を感じる。
辺りを見渡すが広場には誰もいない。
「リト様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
心配するエレノに元気そうに頷いた。
「嘘だな……さっきから、辺りを気にしているじゃないか」
隣を歩いていたエドが言った。リトもそれ以上隠すことはせず立ち止まった。
「……ずっと、視線を感じるの」
「実は…私もです。この西側に来てからは特に……」
街の西側は青の民が大勢暮らしている。
もしかしたらと嫌な予感がした時、リトの背中に何かがあたった。
「かえれ!」
振り向くと自分より幼い少年が小さなボールをいくつか抱えていた。リトの足元にも小さなボールが一つ落ちている。
リトはそれを拾った。
「聞いてるのか!かえれよ!」
また、ボールが当たった。痛くない。
リトは静かに少年に近づいた。少年は体を震わせるとまた投げた。
ボールはまたリトに当たった。痛くはない。
「リ、リト様……」
エレノが心配そうに自分の名を呼んだ。
リトはふるふると頭を振った。
「妹が……妹がけがしたんだ!アミィは転んだだけって言ったけど、赤の奴らにやられたんだ!」
今度は一気に全てのボールを投げてきた。
頭に、肩に、お腹に、足に、ボールが当たった。
けど、痛くない。
体は痛くない。
「どうして、同じ人なのに赤の奴らは平気で人を傷つけるんだっ!おまえ達は死ぬことをちゃんと考えてないんだろ!」
この痛みは心の痛み。
リトは少年に駆け寄ると小さな体を抱きしめた。
少年はびっくりしたのか動かなくなる。
「ごめん、ごめんね。私、わかんないの」
リトは嗚咽混じりに呟いた。
「な、なんなんだよ!」
リトはごめんと謝ると離れた。エレノとエドも近寄ってきた。
「行かないのか?」
とエドが聞いてきた。
「ちょっと、この子と話しをさせて」
だが、エドは嫌そうな顔をしている。リトはエドにせがんだ。そんな中へ、エレノが入ってきた。
「いいですよ、今回はリト様の為の旅なのですから」
穏やかな笑みを浮かべると文句を言うエドを連れて少し離れた場所へ行った。
リトはエレノの気遣いに感謝すると、少年に向き直った。
「お話してもいい?」
びくっとすると頷いた。
リトは恐がらせないように少年と一緒に噴水の近くのベンチに座った。
「私はリト・セイス。あなたの名前、なんていうの?」
「キルケ、キルケ・バラディ」
離れた場所で座って小さな声で喋るキルケにリトはふっとデインを重ねた。
「急にごめんね、私……キルケとお話してみたくなったの……」
そっぽを向いてキルケは「別にいいよ」と言った。
「あなたはなぜ赤の民が嫌いなの?」
「理由は特にない、アミィが怪我させられる前はなんとも思ってなかった。でも……今はアミィを傷つけた赤の奴らが嫌いだ」
戸惑いながらもリトはさらに質問した。
同じ青の民が妹を傷つけたら嫌いになるのかと。
そう聞くとわからないと言う。
『同じ人』
怒りで我を忘れて言った言葉だったにしろ、その言葉を言ったキルケの思いが知りたかった。そして、死に対する思いも。
「いがみ合うことはバカなことだと思う。でもさ、やっぱ何かダメなんだ、どうしてもわかりあえない……赤のことを知りたいって思えない」
スカイブルーの青い瞳がリトに向けられた。光できらきらと輝きを放ち、彼の本心を語っているようだ。
「でも、私はそれを知りたいと思う、知ることは悪くなんてないもの」
キルケがため息をつくのが聞こえた。
「種族とか死とか難しく考えすぎだと思う、リトさんは」
驚きの発言にリトはがくりと大きく椅子から滑り落ちそうになった。
「どうして、そう思うの?」