青と赤


□第八章
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リトは密かに思っていた。自分が予言を持っていると兄達から聞いてから、予言を持っていればもしかしたら予言を知るだけでなく予言を変えられるのではないかと。
紅の里で予言を手に入れる前からのあの夢で誰かに、『予言は必ずしも現実にはならない、予言は変えられる貴女自身で』と言われたからだ。

(私は……この先のことも知ることが出来る、そして変えることも……でも!)

リトは未来を知ってしまうことが怖かった。
もし、苦しく悲しい未来を見てしまったらと思うと怖かったのだ。

(どうして、予言は……私にあるの?ねぇ……教えて……)

夢で見る誰かに、リトは訊ねた。答えが返ってこなくても、何度も聞いた。
心がどこかに行こうとした時、前にいる秋花が声を掛けてきた。

「王都が見える!」

リトが前を向くと朝日に照らされた、王都が目の前にあった。
そこに、闇があるなどとは到底思えないほど眩しく美しかった。


その頃、王都の中心にある薔薇騎士団の薔薇邸と呼ばれる場所で徐々に闇が迫っていた。
何も、知らない薔薇騎士達は朝早くから王都の見回りや薔薇邸、城、貴族の屋敷の警備をしている。



―――‐‐

「ふぅぁー……眠い……」

濃い茶色の髪を掻きながら、あくびをする。薔薇邸では赤色の綺麗な薔薇がいろんな場所で咲いていた。
レニーの役目は警備ではなく、この花の世話だった。

「いつも、いつも……こんなことばっかり」

「何が“こんなこと”なんですか?」

「それは、花の世話のこと……」

レニーは花に水をやるのを中断すると、ゆっくり後ろを振り向く。そこには、眼鏡を掛け直しているエレノ団長がいた。

「あ、あっ、あの、すみません!ちゃんと、世話します!」 

エレノの急な登場に慌てて、レニーは誤った。日の光がエレノの眼鏡を光らせた。レニーは深く頭を下げる。

「誤らないでいいですよ、怒るつもりはありませんから」

「あ……はい、ありがとうございます」

レニーに微笑むとエレノは薄茶色の髪を一つにまとめた。そして、今はいない薔薇騎士団副団長エドを思い出した。

(私は……あの時、エドにリト様を助けろと言ってしまったのか……)

自分が命令したことのせいでエドが迷っていないか心配していた。本当はミグトラにリトは殺せと言われていたのに、エレノは彼女を殺すことなど出来なかったのだ。変わりにエドに紅の里まで安全にその身を守れと言った。

(私は……いけないことをしたんだ。ミグトラ様を裏切ってしまった!)

悪いことばかり考えてしまいだんだんと表情が暗くなっていく。

「団長、大丈夫ですか?」

レニーがエレノの顔を心配そうに見つめた。

「ええ、大丈夫です」

とっさに、嘘をついた。
それを言うとエレノは踵を返しここを去ろうとした。

「うわァァァァッ!!」

だが、彼の歩みを遮るように騎士団の者の叫び声が聞こえた。

「今のは!?」

レニーは持っていた鞄の中からわら人形を取り出してギュと握り締めた。

「こちらから聞こえた!レニー、一緒に来なさい」

「はい!」

悲鳴の聞こえた場所に着くと、騎士団の者が血塗れで倒れているのが見えた。その真ん中にはエレノと同じような薔薇騎士団の服だが暗い紺でボタンや服のズボンの裾の線は青色を着た少年がポツリと立っていた。手には血がついた見たことのない美しいナイフが握られている。

「これはどういう……!」

エレノは何故かその少年を知ってるような気がした。

「誰だ!」

レニーが勇敢にもその少年に近づいていく。
顔の見える位置まで近づくするとレニーの顔は驚きの表情をする。

「おまえ……おまえ……ウィル?」

名前を呼ばれると、ウィルはレニーを振り返った。

「レニーじゃない、久しぶり」

血がついた手をふるふると振るいながら、淡々とした口調で挨拶をする。

「ウィル!どうして……!」

エレノはウィルと聞いて思い出した、あのセイレーン・フェライスの息子でリトの兄だといううこと、そしてパーティーの時から行方が分からなかったことを。

「ウィル様ですね、なぜこのようなことをなさったのですか?返答しだいでは……」

急にウィルはエレノを微笑して見つめた。だが目は笑っていなかった。

「あんたはそんなことを言える立場じゃないんだよ、元薔薇騎士団団長エレノ・ウォール」

「何を言っている……のですか?」

「言ってることがわかんないの?エレノ・ウォール、あんたはもう……いらないらしいよ、だからこれからは僕が薔薇騎士団の団長になることになったんだ」

エレノやレニーの呆然としている様子にさらに嬉しそうに悪意を持って微笑む。

「僕は今日から新しい団長。だから、ちゃんと言う事聞け……そうしないと全員コイツらのようにしてあげる」

ウィルはまるで今から遊ぶゲームの説明をするかのように楽しそうに言っている。そして、足ですでに死んでしまった人を踏みつけた。

「止めろよ!」

レニーがウィルの腕を掴み止めた。すると、ウィルはレニーの腕を持っていたナイフで刺した。

「うっ!!」

直ぐに手を離すと、後ろに下がった。だが体勢を崩して倒れこんだ。ドクドクと腕から血が流れ出てくるのをレニーは手で押さえた。そんなレニーをウィルは失望したような目で見て言う。

「触らないで、レニー……友達でしょ」

エレノはレニーに駆け寄ると叫んだ。

「もう、止めてくれ!何でもする……だから!」

「本当なの?だったら……エレノ・ウォール、あんたにやってもらうよ」 

エレノは歯ぎしりすると悔しそうにした。

「何を……ですか?」

「薔薇邸に来る人達、消して欲しいんだ……リト以外ね」

ウィルは急に優しい顔つきになって、近くに咲いていた赤い薔薇をちぎると手でバラバラにした。ウィルが手を開くとバラバラになった、赤い薔薇の花びらは一枚残らず風に飛ばされていく。

「……わかりました」

その一言を言うのに長い時が過ぎたような気がした。
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