青と赤


□第六章
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「早く来なさい…!」



首都レグニアの王城エディオン。夜の闇に包まれた城の中で質素な服を着た女性が誰かを呼んでいた。

「お待ち下さい、姫!」

大きな窓から入ってくる月明かりに照らされて出てきたのはアルフだった。

「貴方は男なのでしょう?どうして、そんなに体力が無いの?」

アルフが姫と呼んだ者が半ば呆れ果てた声で言った。

「も、申し訳ありません……」

「もう……それより!早く城を出ましょう?王の兵やメディに気付かれてしまうわ」

「誰に見つかるって?」

突然、姫の背後から声がした。

「!!」

アルフは急いで姫の腕を掴んで声がする方から遠ざけた。

「あれぇ?……エストア姫だけじゃなかったんだ?」

声の主は暗闇から姿を現した。メディだ。

「うーんと……エストア姫と一緒にいるのは、アルフだ!?そうでしょ!」

「メディ……」

「ふふふっ!ボク、イイものみっけた気がする……!」

メディは満面の笑みで二人に近寄ってきた。

「エストア姫、僕が戦っている間に……お逃げください」  

「嫌です」

「えっ?ひ、姫?」

「嫌だと言ったのです。逃げずに私も戦うわ」

そう言うとエストアは驚いているアルフの腰にある剣を鞘から抜いた。

「自らの立場も忘れ、悪に手を染めた者を私は許しません。さぁ、かかってきなさい!」

剣を構えたエストアの言葉にメディは笑うのを止めた。

「あ……く、悪?ボクが悪?」

「そうです、あなたは国王に仕える四将軍でありながら国を壊そうとしているでしょう!」

エストアの言葉、一つ一つにメディは顔を暗くした。月明かりがそんな彼の顔を照らした。

「お姫様はいいよねぇ……自分のコトをいつでも、正義だと簡単に口に出来てサ」

「何を言って……?」

動揺したエストアにメディは言った。

「ボクはお姫様みたいなヒトがだいっきらい。おとうさんみたいなヒトは好きだけど」

「父?ミグトラのこと?」

「お飾りのお人形さんが……おとうさんの名前を気やすく呼ぶな」

メディの強い殺気に気付いたアルフはエストアの前に出た。

「メディ、引いてはくれないか?同じ四将軍としての僕からのお願いだ」

「アルフの……もういいや、今日は疲れちゃったから遊ぶのやーめた」

子供みたいな口調でそう言うとメディは暗闇の中へ消えて行った。
アルフはふぅと息をつくとエストアに向き直った。そして、彼女が持っていた剣を取った。

「姫様、剣を返してもらいます」

「あら……ごめんなさい。私は……」

「さぁ……もう行きましょう」



暑い夏の夜、王城から姫と将軍が姿を消した。




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