青と赤
□第二章
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二人が食堂に向かっていると、仏頂面をしたオズワルドが黒い服ををきて顔が隠れるほどのフードをかぶっている人を連れているのを見かけた。
「兄さん?」
オズワルドはリトに話しかけられて振り返った。
「リト、起きたのか」
「うん、あの……そちらの二人は誰?」
「知らない、ミグトラの手下だってことは確かだ」
リトは曖昧な答えに苛立ちを覚えた。
「それで?」
「それでって言われても……こいつら、何も言ってくれないんだよ」
すると、今まで黙っていた黒服の一人が喋った。
「アタイたちはあんたに話しをする為に来たんじゃないのよ、セイレーン様に用があるの!」
腕を組んでイライラした様子の人はどうやら女らしい。女はもう一人の怪しい黒服を見た。
「そうでしょ?」
ゆっくりともう一人が頷くと女は口元に笑みを浮かべて父の部屋に案内しろとオズワルドをせかす。
「あたしも一緒に行く!」
リィムが歩きだそうとした、3人の歩みを止めた。
「はぁ?」
気の抜けたオズワルドの声が返ってきた。リィムはまた一緒に行くと言う。
「姉様も、父様にさっきの話しがしたくない?」
リトは、はっとしてリィムを見た。
「うん、でも……」
リトは何か言いたかったが、リィムがリトの答えに満足そうに頷くのを見て言えなくなった。
「あたしたちも一緒に行くことにするから」
リィムはオズワルド達に言った。女はもう一人に顔を向けてたずねた。
「……いいの?」
「話しをするのに、何人いようと変わらないだろう」
もう一人はそう言うとまた、歩き初めた。リィムはリトを見て、ニッと笑う。
リトも少しだけ微笑み返したが、心の中は夢のこと忘れてしまおうと必死だった。
それから、リトたちは父の部屋に来た。オズワルドはノックもせずにずかずかと父の部屋に入っていったので部屋で書類を書いていた父はおどろいたようだ。
「なんだ、オズワルド部屋に入る時はノックをしろと何回も――」
「父さんに会いたいって、人がきてんだけど」
「誰だ?」
オズワルドの後ろにいた、黒服の男が前にでてきた。
「俺たちは、ミグトラ・オーランド様からの伝言を伝えにきました」
もう一人は、大事そうに服の内側から手紙を出し、セイレーンに渡す。一分も経たずに手紙を読み終えた、セイレーンは顔を黒服の男に向ける。
「お前たちは、わざわざレインがミグトラと結婚したということをこんな手紙で伝えに来たというのかね?」
『なんだって!?』
父の言葉にリトとオズワルドとリィムは大声で叫んだ。3人を無視して黒服の男はしゃべりはじめた。
「ミグトラ様は自分が、セイレーン様のところにお伺いするのはとても目立ってしまい貴公に迷惑をかけるからとのお心遣いで私たちにこの手紙を……」
「ふっははははっ!」
突然、セイレーンは男の言葉をさえぎりを笑いはじめる。
「どうかなされましたか、セイレーン様?」
「おっと、申し訳ないな……他からみればお前たちも目立つと私は思うのだが、ミグトラがそう考えているのならお心遣い感謝しよう」
セイレーンは謝罪と感謝の言葉も述べたがその中には皮肉が秘められていた。
黒服の女は何か言いたげにしていたが、男にキッとにらまれて自分の服を見て
「そうでしょうね」と答えた。しばらく気まずい空気があたりに漂う。それを壊したのは慌てて部屋に飛び込んできた、アルフだった。
「父上!!お話ししたいことが!」
「アルフ!静かにしろ!」
父に諫められたにも関わらず落ち着く様子がアルフにはまったくない。どうやら相当焦っているようだ。
「大変です!紅の里で内戦が!!」
慌てて入ってきたアルフに父は大声を出して怒ったが、アルフはそれを上回る声で話した。
「なに?」
アルフの一言でまた静けさが部屋に満ちた。黒服の男がアルフの方を見て話しかける。
「アルフ様、詳しくお聞かせ願えますか?」
「あ、はい!先ほど昨日のことでヘンリー王とお話したく会いに行ったときのことで……」
――――‐‐
『すまなかった…全てミグトラに任せきりであんなことになり……』
国王は苦しそうな顔をアルフに向ける。アルフは苦しそうな王になんといえばよいのかわからなかった。
考えたすえ、出てきた言葉は『王が謝ることではないです』だった。王はまだ苦悶の表情を浮かべている。
『アルフよ、私は間違っていたのか?』
国王は両手で顔を覆いアルフにたずねた。
『ミグトラを……将軍にしたことですか?』
アルフがゆっくりと答えると王は素早く首を横にふり違うと言う。
『お前の父、セイレーンを薔薇騎士の地位から外したことだ。あれは間違いだったのか……だから』
両手を顔からはなすと静かにこう言った。
『だから、紅の里で内戦が!』
――――‐‐
「王はすこしの沈黙の後、こう言われました」
アルフは父の顔を見る。
「王は紅の里で内戦が起こったのは父上、あなたを薔薇騎士の地位から外したからだと思っている!」
「お前は何が言いたいのだ?」
「わからないのですか?なら率直に言います。父上、もう一度薔薇騎士の地位にお付きください、そして紅の里の内戦を止めてください!」
まっすぐにアルフは父だけを見つめていた。息子のその真剣な眼差しを長く見つめられず、セイレーンは下を向く。
「それに、ウィルのことも」
「ウィルのこともだって!?」
その一言にオズワルドがアルフに歩み寄った。
「そうだ……」
「何て言ってたの!?」
リトも一歩、アルフに近づく。アルフは困った顔になると話しはじめた。
「ウィルは昨日のパーティーの時からいないかっただろう?王は…ミグトラの下でいると」
「ミグトラ・オーランド?」
リトは昨日会った、きのこ頭が強く印象に残るミグトラを思いだした。
「そうだ、そして紅の里の内戦には紅の里の長と……ミグトラそしてウィルが黒幕じゃないかとも」
オズワルドは息をのんだ。リトの方は何か決心したような表情をしている。リトとオズワルドの間で、リィムはどうすればいいのだろうかとおどおどしている。そんな会話を終わらせるように黒服の男が話す。「皆様、今はそんな話しをしているときではないと思うのですが?」
男は突然、セイレーンに背を向けると黒服の女を部屋から出るように促した。
「では……私たちはこれで失礼します」
女はぐずぐずしていたが、男が出ていくとそれに続いて出て行った。