青と赤
□第一章
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勉強やダンスの練習に疲れたリトはこっそりとフェライス邸の中庭で屋敷にいる兵達と剣の練習をしていた。屋敷を警備する兵達だリトなどは到底かないもしなかった。だがリトはこちらに来て初めて心から楽しいと思っていた。
兵士がリトの木刀をはじき飛ばし、決着がつく。
兵士たちはみな大きな男ばかり、負けて仕方がないがやはり悔しい。だがリトの健闘に噴水の近くに座っていたリィムは拍手を送った。
「つ、疲れた……」
座る場所を探しふらふらしながら歩いたが、ふらっと後ろに倒れかけた。リィムが駆け寄ってきて倒れかけたリトを支えた。
「すごい!ここにいる人は元薔薇騎士団の人たちなのによく戦ったね」
リトが兵といい戦いをしたのはオズワルドと一緒に剣術を習っていことが理由だ。リトは自分が強いわけでないと思っていたせいか、冷たい言葉をリィムに言ってしまった。だがリィムの方は気にしている様子はない。リィムの口から出た薔薇騎士が気になり彼女に聞いた。
「姉様、知らないの!?」
何とも言えないリトは苦笑するしかなかった。
「この国ではすごく有名な騎士団なのよ」
リィムは少し誇らしげにしゃべり初めた。
「その騎士たちは、皆子供達で薔薇の血筋の中で特に優秀な子供しか入れない騎士団なの!」
「子供だけ?薔薇の血筋?」
リトには意味がよくわからかった。リィムは腕組みしてまた言った。
「どうして子供だけかは知らない。薔薇の血筋っていうのは薔薇騎士団の初代団長の血筋のこと……でも今じゃ血筋も関係なくなってるわ」
「どうして?」
「だって薔薇の血筋なんてほとんどいないもの」
リトはこの前会った青年のことを思い出した。彼が薔薇の血筋かはわからないが薔薇騎士団の団長なのだ。つまり、すごい人。
リトは前のあいさつのことを恥ずかしく思った。
(あの人も薔薇騎士団の人だった。しかも団長、すごい人だったんだ……なのに私は!)
そんなことを考えていると屋敷の方からアルフが走ってきた。
「リト!こんな所にいた!探してたんだ。ダンスの練習をサボってるとメイド長から連絡があって、まったく……戻ってダンスだ!」
完全にリトは忘れてた。
今日は父に言われてダンスの練習をするはずだった。リトはそれを抜け出して来ていたのだ。
確実に怒られると思いながらもリトとリィムはアルフについて行った。だがリィムは途中で逃げた。アルフはリィムには関係ない話しだからいいかと言ってそのまま屋敷の大広間に来た。
「メイド長、リトを連れて来ましたよ」
アルフはそれだけ言って大広間から出て行った。
アルフが出て行くとすぐにメイド長がリトに近ずいてきた。
「リト様、午前中ダンスをしなかった分今からはずっとダンスの練習をしましょうね」
「はい……」
リトに選択肢はなかった。メイド長は忘れていたと言うように手をたたいた。
「そういえば、レイン様もご一緒に練習されますから……よろしくお願いします」
それまで、リトはレインがここにいることに気付かなかった。レインは奥の方で一人ぽつんと椅子に座っている。レインはリトに気がついて笑顔を見せた。
リトはレインに近かづいていった。その後にメイド長が隠れるように続いて歩いてくる。
「姉さん……一緒にダンスの練習しましょう」
「リトとダンスの?」
リトが頷くとレインはニッコリと笑って立ち上がりリトの手をとるて踊り初めた。リトは一緒に踊っているレインをきれいだと思った。
(姉さん、きれいだなぁ…なのにみんなに嫌われてる)
心の中で可哀想な人だと思った。
そのためかメイド長からダンスの時の姿勢や笑顔で踊れと怒られた。だいぶ長い時間練習を続けた。やっとメイド長から終わりの合図がでたのは6時ぐらいのことだった。リトが自分の部屋に帰ろうとしたときレインが声をかけてきた。
「リト、私の部屋に来てほしいの嫌かしら?」
「うん」
リトはレインと共にレインの部屋に行くことにした。
―――‐‐
屋敷の二階の一番隅がレインの部屋だった。部屋はきれいに整えられている。
レインはリトに椅子に座って待っててと言うと奥の部屋に入っていく。少ししてからレインが部屋から出てきた。その手には桜色のドレスを持っている。レインは二コ二コしながらリトにそれを渡す。
「そのドレス、リトにあげるわ」
リトは一瞬驚いたがすぐに首を振った。
「でも、これは姉さんのじゃ……」
レインは少し怒ったような口調になった。
「私はリトに……妹にあげることにしたの、だから…受け取って?」
「……うん、ありがとう…姉さん」
さっきまではレインに話しをする時はよそよそしい感じだったリトがレインに普通の姉妹ように話していた。それに本人は気付いてはいなかったが、レインはわかったらしくいつもよりうれしそうだった。
リトは朝早くから朝食を食べていた。父とアルフも一緒に食べていた。父は朝食を食べ終えるとリトにむかってこう言った。
「リト、街で田舎から出てきた二人の少年がこの家を探し回っているということなのだが……」
リトは食べていたパンをポロッと落とした。そして勢いよく立ち上がると叫んだ。
「オズワルド兄さんとウィル兄さんだ!!」
アルフは驚いたてごほっごほっ咳き込んでいる。喉にパンが詰まったらしい。兄は涙目でリトの方を向いた。
「……えっと、じゃあ、その二人も僕たちの兄弟だね、でも6人だ。後一人はどうしたんですか?」
「たぶん、デインはまだ小さいから連れて来なかったんだと思う」「そうか…残念だなやっと全員揃うと思ったのに」
リトはアルフのその言葉に首を傾げた。それは前から気になっていたことなので聞いてみることにした。
「あの……もう一人いるんじゃないの?」
アルフは下を向いて何もしゃべらなくなった。父は機嫌が悪くなったのかため息をついた。リトはまずいと思ったが父が口をひらいた。
「エドという息子だ。あいつは7歳の時に家を出ていったきり帰ってこん、もう、私の中では死んでいるんだ」
リトはごめんなさいと言うと椅子に座った。アルフは顔をあげた。
「きれいな銀髪だったことを覚えているよそれで……たしかオズワルドの双子の弟でしたよね、父さん」
父は少しだけ頷いた。リトはふっと薔薇騎士のエドと言う名前で銀髪の少年のことを思いだした。
(まさか……ね)
リトがそろそろ部屋を出ようかと考えているとレインとリィムがメイド長を連れてあわてて部屋に入ってきた。
「旦那様!あの二人が!」
メイド長はまっすぐ父の方に走っていき言った。レインが後ろで頬を染めて楽しそうな表情をして言う。
「オズワルドとウィルって男の子だったわ」
リィムはそうだと言わんばかりに首を縦に振った。
「リトに言えばわかるからさっさっとよんでこいとも言ってたわ」
レインはリトを見た。
「まちがいなくオズワルドだよ」
そう言うと玄関に走っていた。久しぶりに会う二人は相変わらず仲が悪そうだ。
―――‐‐
リトたちは大広間に集まった。
「どうして、ここに来たの?」
リトはオズワルドとウィルに聞いた。すると、オズワルドはウィルの肩を叩くとこう言った。
「ウィルがさ、どーしてもおまえに会いたいって言うからさ」
ウィルは顔をしかめるとオズワルドに抗議した。
「ちがうよ!僕は別に……そんな」
それから二人は口喧嘩をする。リトがやめてと言うとオズワルド邪魔だとリトを突き飛ばしてしまった。
「あっ、姉様!!」
リィムが叫ぶ。
やっと父が止めに入ってた。
「もう、止めなさい!」
父の言葉にオズワルドとウィルはけんかをやめた。
二人がおとなしくなると父は広間にいる全員にわかるように言った。
「明後日、この国の大きなパーティーが開かれる。それは、皆知ってると思うが……表向きはミグトラ・オーランドと言われるものの、将軍就職しきだ」
父が少し間をあけたときアルフが叫んだ。
「ミグトラが将軍に…そんな…将軍になるのは父上のはずでは!?」
兄の焦りでリトたちは不安になり父に聞いた。
「ミグトラって、私たちの村でも有名だったから知ってる」
リトの言葉にウィルが付け足した。
「悪い意味で……ね」
オズワルドも頷いた。
「どうして、そんなんが将軍になるんだよ?」
父は咳払いすると続けた。
「表向きだと言っただろう……真の目的はミグトラの正室者探しだ」
一瞬広間が静けさで満ちた。リィムが声をだした。
「なんで?」
それに続くようにアルフが
「ミグトラには正室が」
父は何も言わないでレインの方を向いた。
「レイン、お前はその候補だ」
全員が驚きの声をあげた。アルフがはっとして言った。
「あの時、だから父上は僕に!」
リトはレインを見つめた。嬉しそうな照れたような表現をしている。オズワルドが机を叩いた。
「つーか、それ俺たち全然関係ないんじゃないか?」
父は首を横に振った。
「お前たちも招待されている」
「うそだろ!嫌だ!」
叫ぶオズワルドに釘をさした。
「断る権利はない」
オズワルドはぐっと押し黙った。
リトたちはパーティーに行くため正装した。リトは胸に大きなリボンがついた空色のドレス。本当は姉からもらったあのドレスを着たかったのだがメイド長がダメだと言うので仕方なくこれを着たのだ。姉はというと黒と白のシンプルな装い。白いリボンで黒い髪を一つにまとめていた。美という字はこのためにあるのだろうとリトはぼんやりと思った。
「姉様たち、きれい!」
リトの横で一人だけパーティーに行けないリィムが羨ましそうに自分達を眺めていた。そのとなりではメイド長がパーティーに行っても恥ずかしくないように振る舞うようにと兄達に忠告している。リトたちが話していると部屋の扉を叩く音がした。
「準備は出来ましたか?」
アルフだ。リトたちはすぐに返事を返して部屋から出た。アルフはリトとレインの方を見た。
「うん、リトもレインもきれいだよ」
レインは当たり前のようにありがとうと言う。リトは恥ずかしくなりうつむいた。するとオズワルドが顔をしかめて
「アルフお世辞でもきれいっていわない方がいいぞ?リトはすぐに調子にのるから……いた!」
リトは怒ってオズワルドの足を踏んだ。
「すぐ調子にのるのは兄さんでしょ」
「なんだと!」
オズワルドはリトを殴りたいのぐっと我慢している。リトはそんなオズワルドのとなりで白い頬を赤く染めたウィルがいるのに気付いた。
「兄さん?」
「リト、僕はかわいいと思うよ……」
「へ?あ、うん、ありがとう!」
先程まで怒っていたオズワルドがニタッと笑ってウィルの肩を叩いた。
「あーあー……やっぱウィルはシスコ……ぶっは!」
ウィルはオズワルドの右頬をおもいきり殴った。
皆が苦笑していたら父がやってきた。
「なにか、あったのか?」
今の状況を見た父がけげんそうに聞いたがオズワルドが
「だいじょーぶでーす!」
父は頷く。
「そろそろ時間だ……馬車に乗ろう」