短編
□空成
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私は今でこそこうして世捨て人みたいに暮らしていますがね、昔はある殿様に仕えてしっかり武人やってたんですよ。
戦時に駆り出されるだけじゃなくて本当にそこそこ名のある家の出だったんです。
殿が討ち死になさってから家も没落、解体されてしまったんですが、こうして命があって大した苦もなく生きていけるだけこのご時世ありがたい話だと思いますよ。
誰に仕えていたかって?
…まあもう随分前の話だ。
今更話が漏れても残党狩りもありますまい。
私の主は独眼竜と呼ばれていました。
ええ、奥州筆頭の政宗公です。
立派な人でしたよ。
別人が治める世ですから大きな声では言えやしませんが、それはもう。
今も平和ではありますがあの方が天下をとっていたらどうだろうと時折考えることがあります。
筆頭も周りの方々も、そりゃあ素晴らしい人ばかりだった。
私?
私はそんなもんじゃないです。
確かに家柄はそこそこでしたが如何せん実力がねぇ。
馬は得意でしたが筆頭の周りにいる御仁とじゃ比べものになんねぇですよ。
それこそ天と地ほど。
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