おせん
□おせん
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「おせんさん」
嗚呼、貴方のわっちを呼ぶ声が好き。子どもみたいに無邪気に笑う顔も、綺麗な指も、ぜんぶぜんぶ。
「何でやんすか?」
「おせんさんって可愛いですよね。」
いきなり呼ばれていきなり可愛いだなんて。なんなんでやんすか、これは。何かの罰ゲームでやんすか?
誰からでも可愛いなんて言われたら嬉しいのに…ましてや自分が好意を抱いている人から言われたら、嬉しいどころの騒ぎではない。
「い、いきなりなんでやんすか!」
柄にもなく慌ててしまって、おまけに顔は燃えるように暑くて。
「あ〜!おせんさん顔真っ赤ですね。まるでゆでだこみたいっすね。」
そう言ってわっちに近付いてきて、わっちの両頬をつまんだ。
「痛いでやんす…」
「か〜わいいな〜!」
頬をつまみながらケラケラ笑っているよっちゃんさんからは、近くにきて初めてわかったけどお酒の匂いがして、顔もうっすら赤かった。
なんだ…酔ってるだけでやんすね…。
それは、よっちゃんさんはいきなりわっちの所に来て可愛いとか言うような人ではないと分かっていたけど、酔った勢いでなんて…、ちょっとショックでやんす。
「よっちゃんさん、手離してください。
わっちがそう言うと、おとなしくそうしてくれた。
けど、だんだん近付いてくるよっちゃんさん。まだ何か用があるんでしょうか。
でも、それにしても…近いでやんす。そうよっちゃんさんに言おうとした刹那、不意に暗くなった視界に唇にあたる何か。しかしそれは、すぐに離れた。
その代わり肩にかかる重み。その重みにハッと我にかえるとよっちゃんさんがわっちの肩でうなだれていた。寝ているのかなんなのか、まったく動かずにいるよっちゃんさんを、わっちの部屋の布団に下ろす。
気持ち良さそうに寝るよっちゃんさんを見ていたら、さっきの一瞬の出来ごとを思い出して、頬があっという間に赤くなった。心臓もドキドキ五月蠅くて。
一瞬の事だったけど、こんなにも嬉しい。でもよっちゃんさんはさっきあった事なんてきっと、覚えてないんでやんすね…。
こんなにもわっちを悩ませるのは
そう、あなただけ…
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