捧げ物

□○事故ですこれは!
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神様仏様キリスト様山ノ井様、大変です、本山裕史、人生最大の過失をしてしまいました!







○事故ですこれは!







お昼休みのこと。

「見て見てモトヤン!今日も姉上が絶品弁当作ってくれたー!」

クラスで山ちゃんが楽しげに弁当を広げ、今日は何が入っているか、なんて楽しく見せてきたのがつい5分前。

山ちゃんのお弁当はいつもお姉さんの力作で、今日は炊き込みご飯にから揚げ、卵焼き、タコさんウィンナー、ミートボール、茹でたほうれん草、カボチャとニンジンの煮物、レタスとミニトマトとコーンのサラダが大きな弁当箱にみっしり詰まっている。俺はといえば、朝コンビニで買ってきたおにぎりとサラダだけで、ちょっぴりうらやましかったんだけど。

山ちゃんは自分の弁当をひとしきり自慢してからようやっとマイ箸を手にとった。

「いっただっきまあす!」

ずいぶん嬉しそうである。まあ、朝から練習して午前中(寝ながら)授業受けて、やっとありつける至福のときだもんな。俺もツナマヨ食べよう!

さっさと食べて二組に遊びに行くんだもーん、と、俺もうきうき気分でおにぎりの包装を解いていく。

が。

「あーーーーーっ!!」

急に山ちゃんが悲痛な声を上げた。

「うお、どしたの急に」

「姉ちゃんマヨネーズ入れ忘れてるー!」

うわんうわんと、喚きながら、さっきまで弁当箱を入れていた袋をひっくり返して探すけど見つからないのか、山ちゃんは頬を膨らまして足をばたつかせた。

「山ちゃん、今食事中」

「うるさいー。可哀相な圭輔さんが食事ストップしてるのに、どうして本山君は一人でもくもくと食べてるんですかー」

「マヨネーズくらいなくったって食べれるでしょ」

「食べれないよ!サラダどうするのさ!」

「サラダ以外食えばいいじゃん」

「サラダ以外にもマヨ使うもん」

え、サラダ以外の何に使うつもりなんだ、なんて愚問はしない。山ちゃんが見境ないマヨラーだということは周知のことだし。

「これを機に脱マヨラーしなさい」

「やだ、無理。マヨのない弁当なんて利央以下」

「なんて酷い言い草だ!山ちゃん、せっかく作ってくれたお姉さんに謝りなさい」

「君は後輩に謝りなさい」

「お前もな!」

だんだん意味不明な言い合いになった後、山ちゃんはむぅとむくれてお箸で炊き込みご飯をつついていた。

もう、この問題児に付き合ってたら昼休みが終わっちゃうよ…。

やれやれと、俺はおにぎりをひと口食べて、そそくさとサラダの蓋を開ける。えっと、今日はドレッシングじゃなくてマヨネーズ買ったんだよね………

「………」

向かいに座る悪友から視線の矢が刺さる。

「………、なあに、圭輔さん」

「ねえねえ、裕史さん、そのマヨネーズをですね」

「お断りします」

ぴしゃりと突っぱねて、俺は使いきりのマヨネーズの開け口を破った。
とたんに、山ちゃんの手がマヨネーズを持つ俺の左手をがしっと掴んだ。

「話は最後まで聞こう?」

「いいえ、無理です私にはできない放してくだせぇ」

「とりあえずそれをこっちに渡してくれたら放します」

「それもできません」

「お前できないことばっかじゃん。そんなんでいいの?そんなんじゃいつまでたっても恋人とエッチなことできないよ!」

「なにをー!」

徐々に椅子から立ち上がり掴み合いが始まる。

「それとこれとは別だろっ!だいたい健全な高校球児はなあ、どこぞのムッツリさんと糸目さんみたいに毎晩毎晩にゃんにゃんしませんよーだ!」

「毎晩じゃありませんー!毎週ですー!因みにどこぞのいやらしいのと一年生は毎晩に見せかけて先週初にゃんにゃんですー!」

「マジかよそれはびっくりだ!だがしかし、マヨネーズは渡さねぇ!」

「けち!だいたいお前ツナマヨじゃん!すでにマヨあんじゃん!いらないじゃんもう、これ渡しなさい!」

「どんだけマヨが被っててもいいだろ!放せマヨ星人!」

「ひっどーい!モトヤン俺のこと嫌いになったんだ!俺がマヨ欠乏症で死んでもいいんだ!俺たちあんなに愛し合ったよね!?あれは嘘だったの!?」

「ちょっ!何の話だ!」

山ちゃんはズルイ。こうやって冗談を言うことでうちのクラスの女子の腐女子心をくすっぐってるんだ。やたら俺と山ちゃんをカップルにしたがる女子たちはこういう戯言を見逃さない。

「なになに、修羅場!?」

「受けを泣かせるなんて本山最低」

「山ちゃんかわいそう」

ほらみろ!みんな山ちゃんの味方になっちまった。

しかし負けてられない。もしもここで負けてしまったら、俺は昼休みの間中、大量の野菜たちの素朴な味わいを延々楽しまなくてはならんのだ。

俺がいつまでも譲らずにいると、山ちゃんが調子に乗って変なことを言い出した。

「あのとき作った圭輔☆愛のマヨネーズフルコース、あんなに美味しいって食べてたじゃない!『圭輔にはマヨネーズが必要なんだな』って、わかってくれたじゃない!」

「わからねえよ!寧ろ体に毒だ!」

「酷い!もういいわ…!あの熱い夜を思い出させてあげる!」

「ほえ!?」

更に意味不明な言葉を吐くと、山ちゃんはマヨを掴んだ俺の腕を握り、俺の前にしゃがみながら上から下に下ろしていく。わけが分からずに戸惑っていると、開けたマヨの袋の口が俺のベルト…よりも少し下あたりにロックオンされて…

「あのときのモトヤン…、濃かったよ」

「やあああめえええろおおおおっ!!!!」

俺の絶叫と、女たちの黄色い声が重なった。

山ちゃんが何をするのかを本能で察知して、全力でマヨネーズの口を反対側、やむを得ず山ちゃんの顔へ向けた。
と同時に、山ちゃんがマヨの袋を握ってしまい…!!!

ぴゅっ!ちゅるるるるー………

山ちゃんが顔面にマヨを受けて反射的にびくんと震えたのと、女子たちがいよいよやかましくなったのと、教室の扉が開いてマサヤンが現れたのは同時だった……。
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