捧げ物

□○宝石と君と
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「和さんは、周りの人間みんなに優しいから…」

一年生のマネジに運営の細かいことを説明したり、クラスのやつ等の相談役になったり、部活では主将としてしっかりしようと意気込んだり。
そういった努力は、決して悪いものではないはずだ。
誰にも非難されることではないはずなのに。

「ときどき、誰かが和さんを盗んでいきそうで怖くなるんです」

あるとき準太はそう零し、不安げに俺を見つめてきたんだ。

俺が誰かに盗まれる……

正直、考えもしなかった台詞だ。というか、今回ばかりは俺も語らせて頂きたい。つまるところ、盗まれそうなのは誰かということを。








宝石と君と







「で?」

ぶっちゃけ面倒臭そうな慎吾は、必要もない伊達メガネをかけ、だらりと後ろの机にもたれ掛かり、いちご牛乳をちうちう吸いながら尋ねる。食堂近くの自販機で販売している、90円のパックだ。よくもまあ、そんな甘ったるいものが飲めるな。

「ちょっと冷静になって、今日の午前中の準太の対人環境を洗ってみたんだ」
「ほうほう、冷静になってストーキングしたわけか」
「そしたら、俺なんかと比べ物にならないくらいに酷かった」
「人のからかいを無視してんじゃねーよエクボ」

何がひどかったか。
準太をとりまく環境だ。

準太のルックスはいいと思う。垂れがちの大きな瞳、しなやかに鍛えられた体、よく通る声、何より、相手に対して見せるあの挑戦的な若さ……最近、やたら老けて見られがちの俺からしてみれば、常々羨ましいかぎりだ。そんでもって、準太はそんな強気の姿勢の中で、ふいに子供っぽい弱さを見せるときがある。このギャップが、アイツのひとつの魅力とも言えるんだが…

問題は、アイツがその魅力を、無意識のうちに大放出してしまうところ。

「そんなの、準太が周りの女の子にもてるとか、騒がれてるとか、どうせそんなんだったんだろ?」

それくらい慎吾さんだっていつもですけどー、いつもモテモテだけどグラつかないで迅たん一筋に生きていますけどー、と、慎吾はまたいちご牛乳のストローを口に含む。

そう言われるであろうことは分かっていた。
しかし、今回の調査で危険だと判明したのは、そんな外野の女の子たちではないんだ。

「とにかく調査結果を聞いてくれ!」
「わかったわかった、聞くから、聞いてやっから。だからあんまり暴走するな」

聞いてやる、と言うわりに未だに興味をしめそうとしない慎吾だが、仕方ない。
俺は調査結果を報告することにした。




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