捧げ物
□君のせい
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休み時間。
次の時間が移動教室だから、山ちゃんと二人で教室を移動する。
ちょうど、体育館前の渡り廊下を歩いていた時だった。
「あっ、モト!」
「危なっ!!」
ズゴォーンッ!!
凄まじい音と衝撃の直後、俺の視界が暗転した。
君のせい
「しっかりしろ、モト!」
「う…?」
気がつくと、俺は保健室の仕切りカーテンに囲われたベッドの上で伸びていた。
額には氷嚢、鼻にはティッシュ。うん。なんとも間抜けな格好だ。
そんな姿のままボーっと天井を見上げている俺を、心配そうに見つめてるのは、
「マサやん…」
呟いたら、心配そうにしていた表情を一瞬だけ緩めて、
そして、
「お前、アホだろ!」
俺はいきなり怒鳴られてしまいました。
「ちょっ、何それ酷くない!?」
「バスケットボール顔面に食らったくらいで気絶すんな!」
ああ、そっか。
俺、前の時間から引き続き体育のバスケの試合を続行してたマサやんたちのボールの直撃を食らったんだ………て、
「マサやん、バスケットボールは当たったら痛いよ!?」
鼻血だって出たし!
あのデカくて固い球体が与える衝撃はハンパないってば!
と、起き上がって抗議する。
まあ、きっとマサやんのことだから、すぐに反論されるんだけど。
だけど、マサやんの反応は予想とは違ってて。
「だからって、気絶なんかすんなよ…」
反論は反論なんだけど、
「こっちだって、びっくりしたんだからな!」
あえて強い口調で言うその姿は、事故からずっと傍にいてくれてたんだろう、体操服のままで。
「山ちゃんが『当たり所悪かったから、もしかしたら左半身に麻痺が残るかもしれない』って…」
うっわ、山ちゃん縁起でもねえ!
だけど、それを本気にしてたらしいマサやんが、あんまりいじらしいから。
………ちょっと、からかってやろう…
鼻に刺さっていたティッシュを引き抜くと、もう出血は止まっていた。そのティッシュを右手でゴミ箱に捨てて。
「山ちゃんってば大袈裟だなあ。俺はこの通り平気なのに」
と言いながら、ベッドから降りようと左手で体を支えようとして、
「うわっ!?」
わざとバランスを崩してみせた。
「大丈夫か!?」
とたんにマサやんが体を支えてくれる。
うはっ、本気にしてる本気にしてる!可愛いなぁもう。そんなに可愛かったら、もっとからかいたくなるじゃんか!
「…あれ?何かさ、左手が痺れちゃって…」
「ええっ!?」
左手の調子が悪いフリをすると、ビックリして青ざめるマサやん。
「さっき、先生は大丈夫だっつって、山ちゃんも授業に行っちゃったけど、やっぱ先生呼びに行こうか!?救急車呼ぶか!?」
…マジにし過ぎてるマサやんを見ていると、だんだん笑いが抑えられなくなってきた。
「…ぷぷ」
「へ?」
「ぷぷぷぷぷぷ」
「何だよ?」
急に笑い出した俺を不審がるマサやん。
「あーもう!マサやん可愛過ぎ!」
「はぁっ!?」
いや、可愛い過ぎるよ、まったく。
「おわっ!?」
段々イライラしてきたらしいマサやんの体を動かせないはずの左腕で抱き寄せて、ベッドの上まで一気に引き込む。
「うーそっ」
「へ?」
「冗談」
俺の胸に収まった頭を撫でながら俺が言うと、しばらくマサやんは動かなかったけど、
「――ッ!」
すぐに真っ赤になって、俺をポカスカ殴り始めた。
「アホボケカス!俺がどんだけお前のこと…っ!」
「痛い痛い痛い痛いっ」
お前のこと、の後の言葉は言ってくれないのか…。
その小柄な体を、ぎゅっと抱きしめて。
「ごめんマサやん。悪かったよ」
「…言っていい冗談と悪い冗談がある」
「ホントごめん」
「…アホ」
「許してよ。マサやんが素直に『心配した』っつってくんないから」
ちょっと意地悪して言うと、マサやんは黙ってしまった。
だけど、
「…した」
「え…っ?」
「すげぇ心配したっつったんだよ、このタコ!」
罵りながらも、マサやんは俺の胸にぎゅっと顔をうずめる。
うそ、
こんな態度をマサやんが見せるなんて…!
こんな瞬間、一年のうちに一体何回あるだろう、いや、ないに等しい!
このチャンス、逃してなるものかっ!
「雅也」
名前を呼ばれて顔を上げたマサやんの額に唇を落とす。
「なっ…!?」
「しーっ」
すぐに抗議しようとする唇に、人差し指をあててストップをかける。
目をパチパチさせているうちに、その唇を無理やり塞いだ。
「ンンッ…!」
逃げないように、マサやんの顔を両手でしっかり固定。
俺の胸をドンドン叩いて、抵抗しているけど。
ねぇ、雅也のこと知り尽くしてる俺に、勝てると思う?