古井戸から見上げる空は何時でも明るかった。
夜でさえ、どこからか光が零れて、青空に鳥が映った時は手を延ばした。
ある日、光にまみれた世界を再び歩ける事になった。
誰かが古井戸の底から掬い上げてくれたのだ。
気付いた時に広がっていたのは、ただ青空の下には不釣り合いな、焼け焦げた村だった。
掬い上げてくれた人もいない。
ひたすら歩き続ける。
希望は無かった。
歩くことは絶望から遠ざかる唯一の手段だと思った。
例え何が見えようと何の匂いが鼻を突こうと動かし続けた足は、黒い地の炭色を、すっかり吸い上げてしまった。
力尽きた所で、救ってくれる人がいた。
少し獰猛で、気まぐれで優しい人だった。
その人にも奪えないくらい、執拗に生きようとした。
気が付けば世界を見失い、傷みたいな癖を大切に抱え込んで地にへばりついていただけだった。
ただ、生きたかったが為に、全部誤魔化して、いつの間にかある種の死線に近付いていた。
もう二度と見えることのない人たちに誓って、嘘でも生き続けていようと思った。