トハズカタリ
□プロローグ
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カツン。
カツン。
漆黒の闇に静寂を打ち消す気配がする。あらゆる自然から隔離された空間に、誰かが一定の速度で床の上を歩く音が響く。それから、もう一つ別な小さな音が離れた場所からする。
カツン。
カツン‥‥‥。
とある一角で音は途絶えた。ぼおっとした灯りが灯り、白いフードを被った人物が姿を現す。
「‥‥‥やぁ。こんばんは。当館の居心地は如何です?」
ひどく落ち着いた声だった。唐突に声を掛けられたが、舌が張り付き、反応出来ずにいる内に、闇に悠然と佇む梟の声が被せられる。
「当館での飲食はお控え下さいな。」
風鈴の様な形をした灯りはぼんやりと、それを持っている人物の他に周辺を浮かび上がらせる。
木目の板。巨大な棚の一部。そしてそこにぎっしりと詰められた本。白いフードの人物に注意を受けた、物体。
よくよく耳を澄ませば、小さな音の正体は咀嚼音だった。
咀嚼音は本棚の中から聞こえた。