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□恋愛におけるココロとカラダの均衡。
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「…あの…。岳人くん…?」

忍足は自分の上に馬乗りになっている岳人を見上げて問う。

「うっせ。黙れ。」








         恋愛におけるココロとカラダの均衡








部活も無い、ある休日の事。
前日から忍足と岳人は一緒に遊ぶ約束をしていた。
遊ぶ、とは言っても、休日の人混みの中へ出掛けるのには少し億劫で、忍足の家で遊ぶ事になっていた。


「明日、朝侑士んち行くから!!」
とだけ岳人は忍足に告げた。

…時間…言うてへんねやけど…と思いつつも、まあいいかと了承した。





ピンポーン。





来客を告げるチャイムの音で忍足は目を覚ました。
時計を見れば、朝9時を少し過ぎた頃。

「もしかして…こんな早くに…いや、でもアイツなら…」
等と寝起きの回らない頭で考え、よろよろと玄関に向かい、ドアを開ける。

其処には満面の笑みを湛えた愛しい恋人の姿が。
…………だけど何でそんな大荷物?


「はよ!侑士!何だよ、寝てたのかよ?!」

「せやかて岳人時間言うてなかったやん…。」


日々授業に部活にとハードな日常を送っているのだから、休日くらい昼過ぎまで寝ていたとしてもバチは当たらないだろう。


「朝っつったら朝なんだよ!!俺楽しみにしてたんだからな!」

まだスリッパも用意していないのに、勝手に岳人は上がり込み、ぺたぺたと歩いていた。


「ほなちょっと俺着替えて来るわ。その辺座っと…」
忍足が言うより先に、岳人は自分の定位置にちょこんと座っていた。
全くコイツは…。勝手知ったる…ってヤツか?


忍足が着替えをしていると、がさがさと岳人が自分の持って来た荷物を漁る音が聞こえて来た。

「そーだ、侑士ー!昨日さー、母ちゃんにお前んち来るっつったら弁当作ってくれたー!」
隣の部屋で着替えている忍足に聞こえる様に、岳人は大声で言う。

「ほんまに?」

「おー。母ちゃん侑士のコトすげえ気に入っててよー、忍足くんに食べさせてあげなさいだってよ。」


着替えが終わり、忍足がリビングの岳人の所に行くと、岳人の周りはまるで飯事のお店屋さんの様な状態になっていた。


「ようこんな荷物持って来たなぁ…。」
忍足は岳人の隣に不自然に空いている、恐らく自分が座る為のスペースであろう場所に腰を下ろした。


「だって、これが弁当だろ?で、これがおやつだろ?で、これがゲームだろ?」




子供の様に目を輝かせて一生懸命話す恋人に、忍足は目を細めた。
ほんまに真っ直ぐで純粋なんやなぁ…、とつくづく思う。


岳人は決して感情を隠したり、嘘を付いたりはしない。
何時だって自分の感情に正直で、それが長所でも短所でもある。

忍足はつい、そんな岳人と自分を比べてしまう。
忍足は心を隠し、自分の身を心を守る術を知っている。



これが「オトナになる」、と言う事なのだろうか。



大人、と呼ぶにはまだ早い。
子供、と呼ぶのはもう遅い。



大人と子供、そのどちらにもカテゴライズされない中途半端な、宙ぶらりんな自分達。
子供から大人へと成長して行く過程に在る、ごく僅かな時間。

その時間をこの恋人と共に過ごせる事は、忍足にとって、とても嬉しい事だった。



自分の持っていない物を沢山持っている恋人。
自分の忘れかけていた感情を思い出させてくれる恋人。
時には驚くほど大人びた事を言ってみせたりもして。
くるくると変わるその表情と感情はまるで万華鏡の様だ、と思った。



「…し?ゆーしっ?!人の話聞いてんのかよ?!」

忍足が思い耽っている間、岳人は何かを一生懸命に話していた様で、気が付けばさっきまでの明るい笑顔は消え、
むくれた表情になってしまっている。

「…あ、ああ、堪忍。岳人がお飯事してるみたいでかわええなー思っとった。」
「んだよソレ!!」
足の甲辺りを思いっ切り蹴られ、もう一度、堪忍、と謝る。





岳人はもう気が済んだらしく、話を進めていた。


「なあなあ、ガンダム無双やろーぜ!!俺、PS3持って来たから!!」
「ハードごとかいな!!」
「だってお前んちPS3ねえじゃん。」

道理でこんな大荷物になる訳だ、と忍足は内心納得した。
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