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□anniversary
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「岳人、今日、ちょい遅くまで起きてられるか?」



部活の帰り道。いつもの道。いつもの時間。
二人になった時に、ふと忍足は岳人にそう告げた。
時刻は午後6時半。


「…??何で?大体いつもの時間に寝よーと思ってたケド。」
何時もの時間、と言うのは課題に追われていない限り、大体12時頃だ。


「ほんのちょっとでええねん。夜、電話するから。」
「別にいいけど…。何だよ、今言えばいーじゃん。」

気が長い方では無い岳人は、何故か煮え切らない忍足に疑問をぶつけた。




「今じゃ意味が無いねん。」




「イミわかんねーし。何だよソレ。」
悪態を付きながらも、結局はこの男の言いなりになってしまう自分を岳人は良く知っていた。



話しながら歩みを進めている内に、二人の道を分かつ場所まで来てしまった。
皆と別れてからずっと繋いでいたその手。

忍足は名残惜しそうにゆっくりと時間を掛けて手を離す。
まるで岳人の指先を舐めるかの様に。



(今日の侑士は何かヘンだ。)
岳人はそう思いながらも、自由になった左手をじっと見詰めていた。











そう言えば。


何でいつも俺の左側に立つのか、と岳人は忍足に聞いた事がある。
その時に忍足は、何時もの飄々とした態度を崩さず、何とも無い様に、



「岳人は左利きやろ?利き腕守ってやらなあかんやろ。」



と答えた。
それに、「大切なモンは利き腕で掴むモンやで。」と付け加えて。



岳人は左利き。
忍足は右利き。



ああ、そうか。と思って岳人は少し嬉しくなったのを良く覚えている。


ダブルスを組んでいたから、お互い多少のスキンシップには慣れていた。
しかし、友達のそれと、恋人としてのそれとでは大きな違いがあって。


肩を組む事、手を繋ぐ事、頭を撫でられる事、一つ一つに岳人は赤面し、照れ隠しの悪態を付いていた。




今日も。




忍足は自分の利き腕を守っていてくれたんだ。
そう思ったら胸が熱くなった。


「ほな、夜電話するさかい。寝んなよ?」

「…わかった…。」

忍足はそう言うと、人が居ないのを確認して岳人の両肩を掴み、軽く触れるだけの口付けをした。


「そんじゃ、また夜な。」



ああ、この男って。



こっちが恥ずかしくなる位気障なコトを平気でやってのけて。
しかもそれが凄く様になっているから何故だか悔しい。

自分には逆立ちしても出来ない事だな、と岳人は思う。


手を軽く振って、お互い別れ、其々の帰路に着いた。










そして、夜。


時刻は11時40分。
食事も済ませ、風呂も済ませた岳人は睡魔と闘っていた。


「あー…何であんな約束しちまったんだろー…眠みィし!!ちっくしょー…」

忍足は12時過ぎに電話を掛けると言っていた。
約束の時間まで後30分はあるのだろう。


漫画を読んでみたり、好きな音楽を聴いてみたりして、何とか起きていようと努力した。
何故こんなにも眠い目を擦ってまで起きていなければならないのかと自問し、
突き詰めれば惚れた弱みだと言う事に気付いて照れ臭くて手足をじたばたさせてみる。



そんな事をしている内に0時が過ぎた。
まだ電話は来ない。

「もー!!バカ侑士!!早くしろっての!!」


心の中で悪態を付いて、電話が掛かって来たら文句を言ってやろうと思っている内に、うとうとしてしまった。









0時24分。









携帯の着信音が鳴る。

それは忍足だけの為に設定してある特別な着信音。


ハッと我に返って、岳人は急いで携帯を取った。


電話の向こうから、少し含み笑いをした柔らかな低音が聞こえる。

「ちゃんと起きとったみたいやな。」

「…ったりめーだろ!!約束は守る!!男に二言はねえ!!」


うとうとしていた事は隠して。


「…の割には呂律回ってへんなあ?」
…全てお見通しかよ。と心の中で思いつつも。


「んで用件は何なんだよ。」




「覚えてへん?」




端的な言葉にハァ?と疑問符をいっぱい浮かべながら岳人は考えた。










「あ。」










「やっとわかったみたいやな。」



1ヶ月前の今日。
この時間。



岳人は忍足に告白された。



所謂付き合い初めて1ヶ月の記念日。



「覚えてたんだ…。」

「当たり前やろ?」



好きになったのは岳人が先だった。
忍足の強さも弱さも一番近くで見て来たから、全てひっくるめて好きだと思った。

忍足に好きだと告白して、だけどまだ友達の域を超えているかどうかすら判らない、
と言われたのだ。
毎日毎日好きだ好きだと言って、忍足の気を何とか自分に向けようと努力した。



それから暫くして、忍足から告白された。

「好きや。俺と付き合うてくれへん?」と。

メールだったけど、キモチは充分に伝わった。
それが、1ヶ月前。




「あれからもう1ヶ月も経つんだ…。」

「せやな。長かったよーな短かったよーな。」


1ヶ月の間、色々な事があった。
手を繋いだり。
初めて人と口付けを交わしたり。
愛の言葉を囁き合ったり。
ぶつかり合ったり。



「つかお前マメだな。」

「当たり前やろ?!記念日忘れるガックンのが酷いわー。」

「ガックン言うな!!」



こんな他愛無い戯れも、愛情の一つ。



これから一つ一つ色々な事を共に経験し、数珠の様にソレを繋げて二人で歩いて行くんだ。

嬉しいコトも。

辛いコトも。

全部半分コして。




「もう一回言わせてや。」

「うん。」

「岳人、愛してる。」

「俺も、愛してる。」



END

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