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□スキ、キライ、スキ、キライ。
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「何でだよッ…!!」

岳人はガシャン、と派手な音を立ててロッカーの扉を拳で叩いた。




放課後の部活動も終わり、部室に残されたのは忍足と岳人の二人だけ。
冬が過ぎ、春めいたこの頃、日が長くなったとは言えもう夕暮れが二人の影を作っていた。



「…あかんねん…。どないしても、ダメやねん…。」
部室に置かれたベンチに座り顔を手で覆った忍足は心底悔しそうに、切なそうに、声を絞り出す。




もう、どれ位このやり取りが続いているのだろうか。




「侑士がダメでも!!俺は好きなんだ!!」
言葉通り食って掛かりそうな岳人を尻目に、忍足は体制を崩さない。


「お前の望みなら何でも叶えてやろう思った。けど、ダメやねん…。」

「何で!!」

「理屈じゃないねん…。好きになれんモンはなれんねや…。」




二人がダブルスを組んで、もう長い時間が経つ。
何時もなら、忍足が折れて必ず丸く収まっていた。
しかし、今回ばかりは勝手が違う様だ。
忍足も一歩も引かない。




攻める岳人。
引かない忍足。




この駆け引きに終わりは来るのだろうか。




「俺は…ッ…こんなに好きなのに…ッ…!!」
ロッカーの扉に拳を食い込ませたまま、崩れ落ちそうな岳人に忍足は容赦無く告げる。





「お前がそないに好きでも、俺は好きやない。」





さっきまでは。
部活終わったら飯食いに行こうとか楽しく話していたのに。
回転寿司に行こうとか、どっちが沢山食べられるか勝負だとか笑っていたのに。





「言い合っててもしゃあないしもう遅なったし帰ろうや。」

「だけど!!」



「岳人がどんなに好きでも俺は好きやない。これは変わらん事実や。」


冷たい瞳で忍足は岳人を見据える。



「どんなコトでも二人で分かち合おうって言っただろ?!」

「ソレとコレとは話が別や。」



はぁ、と大きな溜息と共に忍足は岳人を諫める。



「好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。お願いだからわかってくれよ…。」

「そないなコト言われても好きになれんモンは好きになれん…。」




懇願に似た岳人の呟き。
それを断ち切る様な忍足の言葉。




もう空は紺色に変わっている。
それだけ長い時間、二人は言い合いをしていると言う事だ。



「俺だって理屈じゃなく好きなんだよ…!!いつもなら侑士、折れてくれんじゃん!!」

「ダメや。好きにはなれん。頼むわ…堪忍してや。」






























「納豆巻きだけは。」



END

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