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□1分1秒
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メール、来ねえし。
ナニやってんだよ、あのバカ。
1分1秒
俺がメールしたのが40分前。
いつもは即レスで返事来るのに、今日は何だかしらねーけど返事が来ねえ。
毎日ガッコで会って、部活で会って、一緒に帰って。
家に帰ってからも寝るまでメールして。
「おはよう」のメールから始まって、「おやすみ」のメールまで、付き合う様になってから毎日ずっと侑士漬けの日々。
有り得ねえよ。
俺がこんなマメにメールとかしてるとか、侑士のコトばっか考えてるとか。
他の奴らにはぜってー口が裂けても言えねーし。
マジ有り得ねー。
あーもーナニやってんだよアイツ。
早く返事しろよ。
誰かと電話してんのかな?
誰か来てんのかな?
うわ、考えただけでハラ立つ。
考え始めたらイヤなコトばっかアタマを過ぎって、居ても立ってもいられなくなった。
待ってるだけなんて俺らしくねえ。
「ちょっと出掛けて来る!!」
取り敢えずケータイと財布だけポケットに突っ込んで、台所に居る母ちゃんに叫んで家を飛び出した。
歩いてる時間すら勿体無くて、夢中で走った。
季節はもう春なのに、夜風はまだ冷たい。
侑士の家まで、走って30分、ってトコか。
途中、大通りの信号で待たされる。
ココの信号、長げえんだよな。その場で足踏みしたって信号変わんねーし。
信号待ちの時間すらもどかしい。
ムカツク。
走って、走って、走って。
息が上がり始めた頃、ケータイが鳴った。
侑士の為だけに設定してある特別な着信音。
急いでポケットからケータイ取り出して、メールを確認する。
「ごめん、風呂入っとった。」
…んだよ!
もうマンション目の前だっつの!
遅せえんだよバカ。
そのメールには返信せずに、エレベーター待つのもヤだったから階段を駆け上った。
侑士の部屋の前に着くと、急いでチャイムを押す。
ピンポーン。
ピンポピンポピンポピンポピンポーン。
今の俺のキモチみたいに、チャイムを連打。
ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン。
こんな時間に何やねん…!って呟きがドアの向こうから聞こえた。
ドアが開く。
お前、少しは用心しろよ。
「岳人?!」
髪を拭きながら出て来た侑士は、息を切らした俺を見て驚いた。
「自分、こんな時間にどうしたん?何かあったん?」
何もねえよ。お前が返事寄越さねえからだろ?
ハァハァと肩で息をして言いたかったコトを何とか伝えようとした。
「…ゆ……が……ル………さ…え…ら…」
息が上がっててマトモな言葉になんねー。
「何言うとるかさっぱりわからんわ。取り敢えず上がり。」
そう言って侑士は俺を部屋に招き入れた。
後でぜってー文句言ってやる。
「で、どないしたん?」
ソファーに座った俺にココアを出しながら、侑士は真剣な眼差しで聞いてきた。
はは、そりゃそーだよな。
俺だってこんな時間に侑士が息切らして俺んち来たらビビるもんな。
「お前がメール寄越さねえから」
「は?」
「侑士からメールが来ねえから何かあったのかと思って走って来たんだよ!」
俺は出されたココアのマグカップを両手で持って、ギロリと睨み付けながら侑士に答えた。
侑士は一瞬、ぽかんとして、その後くっくっと喉の奥で笑った。
「ホンマ、岳人はかわええなぁ。」
「可愛いとか可愛くねーとかそーじゃねーだろ!!怒ってんだよ、俺!!」
侑士が俺の頬を撫でようとしたから、ふい、とそっぽ向いてやった。
あームカツク。何でこんな余裕なんだよ、コイツ。
「そんな急がんでもおやすみのメールは毎日しとるし、大体明日学校行けば会えるやろ?」
だー!!!この余裕が気に入らねえ!!!
俺は飲み終わったマグカップをダン、と乱暴に置いて、侑士を真っ直ぐに見据えた。
「あのなあ!明日のコトなんて誰にもわかんねーんだぞ?!1時間先のコトだって、1分1秒先のコトだってわかんねーんだからな!!」
一度堰を切ったコトバは止まらない。
「もしかして!突然事故とかに遭っていきなり死んじまうかもしんねーんだぞ?!お前のその余裕はどっから来るんだよ?!
未来なんて保障されてねんだぞ?!」
ああ、耳が熱い。
きっと真っ赤になって怒ってんだろうな。
侑士はまだ言葉を紡がず、俺の言葉を聞いている。
「例えばな、このメールが来なかった時間!俺はいつも通り家で待ってたとして!侑士に何かあって侑士が死んじまったとしたら、
俺は何であんトキ会いに行かなかったんだろうって後悔する。可笑しいかよ?!」
「や。可笑しくなんかあらへんよ。」
侑士は満面の笑みでそう、答えた。
何だよ、何で笑ってんだよ。
「岳人がそんだけ俺の事思てくれてる思たら嬉しゅうてな。俺、ホンマ幸せモンやわ。」
侑士の大きな掌が俺の頭を撫でる。
俺は言いたいコトを一通り言い終えたから、大人しくしてた。
「俺が甘かったんやな。岳人はいつも俺の横におるんが当たり前やと思っとったわ。堪忍な?」
「わかったならいい!」
ずっと立ったままだった侑士は俺の横にすとんと座り、俺をぎゅっと抱き締めた。
そして、髪や頬に沢山のキスを降らした。
「ホンマ、堪忍な…。ほんで、ありがとな。」
俺は耳元で囁かれる侑士のその低音の声が心地よくて、自分も侑士の背中に手を回して抱き締め返した。
「じゃ、言いたいコト言ったし、もー遅いから俺帰るわ。」
すっと立ち上がって、玄関に向かおうとしたそのトキ。
侑士が俺の腕を強く掴んだ。