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□恋愛におけるココロとカラダの均衡。
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しかし、やり込んでいる岳人とは違い、初めて操作する忍足は勝てる筈も無く、岳人に惨敗していた。
「…こんなん卑怯やで、自分。」
「いーんだよ!俺がやりたかったんだから!!」
どうしようもなく子供染みたワガママだな…と忍足は苦笑いをする。
その後に、聞こえるか聞こえないか位の小さな声で、岳人が呟く。
「…侑士と、一緒にやりたかったんだよ…。」




ああ。




この恋人はどうしてこうもさり気なく嬉しい事を言うかな…。
愛しくて堪らない。
愛しさが込み上げて来て、欲望が溢れ出してしまいそうになる。
堪えるこっちの身にもなってくれや、と心の中で忍足は呟く。



岳人はその微妙な空気を敏感に感じ取ったのか、突然立ち上がり、
フローリングの床に座っていた忍足の足を跨いで膝の上に向かい合わせに座った。


「…?!?!」


驚き言葉にもならない忍足を傍目に、岳人は顔を忍足に近付け、ちゅ、と軽く触れるだけのキスをした。


「?!あかん!!あかんって!!」
忍足は自分の醜い欲望が岳人にばれてしまったのかと焦り、岳人を止めようとする。


「?なんで?いつもしてんじゃん。」
小首を傾げ、不思議そうに見詰めるその仕草に忍足はまた目眩を覚え、必死に自我を保とうとする。
(犯罪やでソレ!そんな瞳で見んなや!)


「今は!今はあかんねん!ダメやねん!!」

「…あ…。侑士…、もしかして…。」
岳人はニヤリと口の端を上げ、忍足の股間に視線を落とした。


「ちゃ、ちゃうで?!そんなやましいキモチなんかあらへんよ?!こ、これはちゃうねん!!」
忍足のそんな弁解にも聴く耳を持たず、岳人はその体勢のまま忍足の上半身を押し倒した。


ゴツッ、と忍足の頭が床に勢い良くぶつかる音が部屋に響く。
「ったぁ…。」
頭を摩りながら体を起こそうとすると、目の前には自分の上に馬乗りになった岳人が。



「…あの…。岳人くん…?」
「うっせ。黙れ。」



岳人はそのまま忍足の胸倉を掴むと強引に口付けた。
唇を割り、歯列を割り、忍足の口内に舌を侵入させ貪る様に舌を絡ませる。

初めは忍足は戸惑っていたが、岳人の背中に手を回し抱き締めると、それに応え噛み付く様な口付けを繰り返す。





どれくらいそうしてお互いを求め合っていたのだろう。
突然忍足が岳人の胸を押し返し、唇を離す。
お互いの唾液で濡れた唇がとても艶めかしく、卑猥に見えた。

「やっぱあかん…!!これ以上はあかん!ヤバイて!」

「どうして?俺、怖くねえよ?」

二人はまだ、「キス以上」の事をしていなかった。
忍足は必死に岳人を止める。
岳人は行為を途中で止められ、憮然とした表情をしている。


「なあ、岳人。男同士ってどないにしてセックスするんか知っとんのか?」
忍足は手をついて上半身を起こし、岳人を自分の体の上に乗せたまま問い掛けた。


「知らねえよ。けど、何とかなんじゃね?試してみなきゃわかんねーじゃん。」
「あんな?男同士っちゅーのは…その…お尻に入れんねん…。」

知らない、と言う岳人に忍足は少し恥ずかしそうに説明した。
目を大きく見開いて「マジで?!」と岳人は驚いていた。

「え、触りっことか、舐めっことかじゃねえんだ…。」
岳人の想像と現実は少し違っていた様で、困惑した表情を見せている。


「だからな?俺、岳人の事めっちゃ好きやから大事にしたいねん。
このままやと俺岳人の事めちゃめちゃにしてまうかもしれへん。だからあかんねん。」
忍足は片手を岳人の腰に回したまま、もう片方の手で優しく岳人の頭を撫でた。


「俺…。侑士のコト、すげえ好きだから…侑士の全部欲しくて…。ココロもカラダも一つになりたかったんだ…。」
「それは俺も同じやで?出来る事ならこのまま岳人押し倒して繋がりたいねん。
けどな?好きやから大事にしたい気持ちのが大きいねん。」

「ちょっとビックリしたけど、俺、侑士となら怖くない。」

岳人も忍足の背中に手を回し、抱き合ったままお互いの心の内を明かして行く。
忍足は岳人の髪に指を絡めて優しく微笑んだ。


「岳人がそう思ってくれるんはめっちゃ嬉しいわ。せやけどもうちょっと、我慢しようや。」
「侑士がセーブ出来るよーになるまで?」
「セーブっちゅーか…順序があるやろ?もっとお互い心を通わせて、触れ合って、そう言う雰囲気になったらしようや。」
流石はラブロマンスが好きな男なだけあるな…と岳人は心の中で思った。





抱き合ったまま、お互いそれ以上言葉を紡がず、ただ、お互いの体温を感じていた。





甘くて、温かくて、優しい時間が流れる。





「そっか…。こーゆーのがもっと必要なんだ。」
ふいに岳人が口にした言葉。

「せやな。焦る事はあらへん。俺は逃げんし。こうしてずっと触れ合って、ゆっくりでいいから進んで行こ?」


「わかんねーよ?俺が逃げちゃうかもしんねーよ?」
岳人はぴょん、と忍足の足の上から降りると、振り向いて悪戯っぽく笑った。

「俺やって我慢の限界があるからな。いきなり押し倒すかもしれへんで?」
忍足も笑いながら反撃に出る。


さっきの話と違うじゃん、と岳人は忍足の頬を抓って笑った。






こうやって。



二人で笑い合いながら同じ道をずっとずっと一緒に歩いて行こう。


大人になんかならなくてもいい。
体を繋がなくたって、心が繋がっていればそれでいい。



手を繋いでゆっくりとこの道を進んで行こう。
君と二人で。



END
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