karaの文

□プライベートミッション
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「おはようございますシュバインさん。……何でしょう?……はい……はぁ」
端末を抱えて話すねことシュバインの会話内容は分からない。ねこの姿を見守るだけのアキラはひたすらそわそわとして落ち着きのかけらも無かった。
じっと見られながら通話するねこはアキラをちらりと窺いトーンを下げた。
「シュバインさん、どうにかアキラにご命じ頂けませんか」
『何故です?』
「……私は壁を抜けられますが、お忘れ物まで壁を抜けられる訳ではないのです」
『小さな物です。ダクトを通せるでしょう?』
「残念ですが、貴方の部下はアキラであって、私はアキラの友達なのです」
『そ、それはもちろん……。ですからこれは命令ではなく、あなたの力を頼った頼み事のつもりです』
「ですから、その……アキラが尊敬している貴方と、私が直にこうする事でアキラとの関係を悪くしたくないのです……」

『!…………分かりました。執務室のロックはこちらで解除しておきます。アキラをやって下さいますか』

「アキラ」
通信を切りねこは振り返った。
「シュバインさんから、大切なお使いの要請ですよ。私とタッグで完遂しましょう」
「え!?」




───────

インターホンが鳴り、シュバインがドアを開けると宇宙ねこが床から顔を出した。
「いらっしゃいませ、ねこさん。これがフロアのパスチップです。アキラの端末に差してやって下さい」
「承りましたシュバインさん。おやおや、いつもとだいぶ印象が違いますね」
「寝起きの男なんてこんなもんです。……だから部下には見せたくなかったのですがね」
無精ひげを撫でて笑った。
「わがままを聞いて頂き感謝します。それどころか私と共同の作業にして頂けて私も嬉しかったです。では」
ねこはチップを手にフロア入り口へと飛んでいった。

──俺が頼み事なんて、甘えてみたのは珍しかったのだがね……。

「ふられたな」
自嘲がこぼれた。




もう一度インターホン。今度こそねこと一緒にアキラが来た。煙草をくわえたままドアを開けたが隙間はさっきより狭く。中は見せない。
襟を開き裾を出したワイシャツ姿。髪も崩れている上に無精ひげ。驚きを隠しきれずアキラは一歩後ずさった。
「お、お邪魔しますシュバインさん!」
「……入れねぇよ。一年早い」
「え?」
聞き違ったかと瞬きした。
「まだ十九だろ。この先は二十禁だ」
「一年……」
ぽかんと口を開けたアキラに、くつくつと喉を鳴らし手を差し出した。
「モノ置いて帰れ。チップも後で返せよ?」
「あ、そ、そうですよね。貰える訳ないですもんね」
「欲しいか?」
「え、いやその……」
「まずは使いっぱから卒業しろ。それからだ。ねこさんに教わって勉強したらいい。俺はお前よりねこさんを買ってる」
目的の物を手のひらからつまみ上げた。
「うぐ。……はい。お邪魔しました……」
肩を落とし戻ろうとした。
「アキラ」
「はい?」
「俺のこんな格好見たのはこのアジトにお前ぐらいだぞ?……ありがとう。助かった」
「…………っ!!」

任務報酬は初めて見るオフ用の笑顔だった。






至福の秘密任務から数時間後。
「おい。珍しいな、シュバインさんが来てるぞ」
サングラス組が昼食のため食堂を訪れると、いつも通りのザッツ大人が何とも上品にざるそばをすすり上げていた。








終 
→あとがき

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