幻想言表U
□サンタの国の物語
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銀世界からの贈り物 〜クリス編〜
「Merry Christmas!」
12月25日。
白くてふわふわとした雪が、天からの贈り物のように舞い降りる。黒い空から落ちるそれは、天使のようでもある。
家々にはキラキラとしたイルミネーションが輝いていて、家族で賑やかに料理を食べている姿が見受けられる。
今日はクリスマス。家族サービスと言って、早くからパーティを楽しむ所も多いだろう。
「ちぇっ! 何がクリスマスだよ! サンタなんか嫌いだい!!」
雪が降り積もり始めた頃、一人の男の子が街の通りを歩いている。
この少年の名は、クリス・ヴァリエット。親はなく、独りでこの街に住んでいる。住処としているのは公園や橋の下などで転々と暮らしている。
こんなにもクリスマスを毛嫌いするのは、この日に父親には棄てられ母親には死なれ、不幸なことしか起きていないからだ。
「あ〜あ……雪まで降って来ちゃったよ。ホワイトクリスマスなんて、何もいいことなんて起きないんだ! ……寒くなってきたな〜。早く今日の寝床と飯を探さなきゃ……」
自分は独りなんだと街中に知らせるかのように大きな声で叫んだ。だが、そんなことをしても気付いてもらえず、ますます孤独が寂しくなり激しく目を擦った。
親もなく家族もなく、10歳のクリスにはあまりにも寂しすぎるのだろう。
クリスは明るい住宅街を抜け、暗い森の中に来ていた。雪を避けるようにずっと下を向いて歩いていたため、気付かない内に森に入ってしまっていたのだ。
真っ暗な森の中。森の中心に来た時、クリスはふと顔を上げて辺りを見回した。
「あ、あれ……? どこだここ? 森……?」
今まで歩いてきた道の足跡は、吹雪き始めたことによって消されてしまい、月明かりさえも森の奥までは届かず雲で消されていく。
クリスはどうすることも出来ず、近くの木の下に座った。雪は止むことを知らず、吹雪き続けている。
クリスの体力はだんだんと低下していき、木に寄りかかってコテンと眠りに付いてしまった。
雪が細かい粉雪に変わり、風が落ち着いてカサカサと葉が擦れて音が聞こえるようになった時、その音に紛れて何かを引き摺っているような音が聞こえてきた。
その音に気付いたのか、クリスは目を覚まして空を見上げた。すると、重たい感じの雲は晴れて、月が見えていた。数時間程、眠っていたことを悟った。
クリスは立ち上がり、腕を思いっきり上に伸ばし伸びをした。その時、さっきの引き摺るような音が聞こえた。
「な……何の音?」
クリスは怯えながらも、目を凝らして森の奥を見た。そこには小屋と人間らしき姿が見えた。途端に疲れが襲ったのか、その場にバタリと倒れ込んでしまった。
パチパチッと火が木を燃やしている音とコトコトと何かを煮ている音が聞こえる。
外はすっかり雪が止み、月明かりで銀色に輝いているように見える。ここはどこかの小屋の中で、寝かされているようだった。
クリスは目で辺りを確認した後、起き上がろうとした。その時、お爺さんが覗き込んで声をかけてきた。
「起きたのかい?」
「うわぁっ!」
クリスは吃驚して、自分にかかっていた布団を下に落としてしまった。その驚きようを小太りで眼鏡をかけている、白い髭のお爺さんは優しい微笑みで見ていた。
「お腹が空いているんだろう? さぁ、こっちに来て食事にしよう」
「……爺ちゃん、何者だい?」
下からものを見るように、警戒しながらお爺さんに訊いた。
「わしか? わしは見ての通り、普通の爺さんじゃが?」
「普通の爺さんが、こんな森の中で住んでなんかない!」
「普通、子供がこんな時間に森の中に居る方もおかしいと思うがな?」
「おいらのことより、爺ちゃんのことを訊いているんだよ!」
「……誰にも言わないか? 絶対に内緒に出来るか?」
「お、おいらに話し相手なんて居ないやい!」
お爺さんは鍋をかき混ぜながら、自分のことを話した。
「わしはな……サンタじゃよ」
「さ、サンタ!? サンタってあのサンタクロース?」
「そうじゃ」
「爺ちゃん、おいらが子供だからってからかわないでくれよ」
「からかってなんかないぞ? 証拠に、あの服を見なさい」
そう言って、お爺さんは壁にかかっている服を指差した。そこには、赤い服と黒い長靴が置いてあった。サンタの必需品とも言えるそれらは、今頃にはよく見かけるものだ。
クリスはまったく信用しなかった。