幻想言表T

□魔物
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※始めに
小説の中に多少、グロテスクな表現が出てきます。
苦手な方は読むのを止めて下さい。
もっとも、平気な方には物足りないような表現だと思いますが、想像力でカバーして下さいね。





「お前に存在価値なんてねーんだよ!」
「近寄んないで!」
「消えてよ!」

 わたし……みんなに何かした?
 ただ、普通に学校に行っているだけでしょう?
 別にみんなに話しかけてもないのに……座って静かにしているだけなのに……
 ここに居ちゃいけないの? 存在しちゃいけないの?
 なんで、わたしだけ……なんで、わたしなの?
 わたしに……『死ね』と? 『死』しか、もう残されてないの?

 その日、学校が終わると走って家まで帰った。背中でクラスメイトがブツブツと悪口を言っている声を尻目に、ただ走って帰った。
 家に着くと、そそくさと自分の部屋に入って鍵を閉めた。誰にも会いたくないから、部屋に逃げた。
 バックを床に放り投げて、制服のままベットに倒れ込むように横になった。すべてのものから目を背けたかった。

『わたし、何もしてないもん! 何でわたしが言われなくちゃいけないの? どうしてわたしばかり嫌われなくちゃいけないの……なんでよ。……そうだよ。わたしは悪くない。何もわたしが消える必要ないじゃん。みんな、みんな消えちゃえばいいんだっ!!』

 少女はそんなことを考えていたら、いつの間にか眠りに付いてしまっていた。

「おい、女! いつまで寝てんだ、早く起きて戦え!」
「んん……な、何?」

 少女は血のような赤い石の上に立ち、右手に杖のようなものを持っていた。
 少女に怒鳴ってきたのは、隣に居る眼つきの悪い少年だろう。目の前に群がる無数の変な生き物をすごい形相で睨みつけていた。

「あ、あなた誰? あれって何なの……?」
「はぁ? お前、頭でもぶったか? あれは魔物だろう?」
「ま、魔物!?」
「ああ。俺たちはあいつを退治するんだろう? おかしな奴だな」

 訳の分からない話をされて、どうしたらいいのか分からなかった。けれど、少年の退治するという言葉を聞いて、少女は魔物を倒さなくてはいけないような気がした。そして、右手に持っているこの杖で、少年の手助けが出来そうだった。

「ねぇ……魔法とか遣えないの?」
「魔法、お前は遣えるはずだぜ。自分でしたいことを念じてみろよ」

 少年はそう言うと、剣を持ち替えて魔物に向かって飛んで行った。魔物と戦うことを生業としているのか、余裕の笑みを見せていた。
 少女は少年の手助けをするため、魔物の動きを止められないか考えた。動きを止めるなら、ということで、魔物が氷で固まっていくのを想像した。想像しながら、杖を魔物の方に向けて叫んだ。

「魔物たちよ、氷のように固まれ!」

 すると、魔物の足元から冷気のようなものが溢れてきて、氷の柱のようにすべての魔物が固まった。

「ナイス! 魔物め、くらえーっ!」

 少年は大きく剣を振り、すべての魔物を切り裂いた。魔物は固まっていたので、粉々になって砕け散った。

 どのくらい時間が経ったのだろうか。少女は目を覚ました。
 外には早朝の光が優しく差し込んでいて、少女は慌てて下の階に降りて行った。

「お父さん? お母さん?」

 少女は嫌な予感がして、部屋という部屋を探し回った。けれど、誰もどこにも居なかった。

「……もしかして、わたし、棄てられた?」

 少女は動揺して悪い方向へと考えを巡らせてしまった。
 少女は外に走って出て行った。もしかしたら、両親がまだ居るかもしれないと考えたからだ。
 外に出てみると、いつも見慣れた近所の風景ではなく、あの夢の中で見た風景に近い情景が広がっていた。
 目の前にはあの赤い石。その石の上には、人が山積みになっていた。父親も母親も、クラスメイトも担任も……自分の知っているすべての人間が積まれているようだった。人間がゴミのように山積みにされていて、死臭が鼻を附く。嫌な臭いだ。

「よう、女。やっと起きたんだな!」

 声をかけてきたのは、夢の中に出てきた少年だった。人の山の上に、赤く染まっている剣を肩に置いて、こっちを見ていた。
 剣からは赤い液体が滴り落ちている。その様子を見て、少女が訊く。

「こ、これ……あなたが?」
「少しだけな。あとは女、お前が殺ったんだぜ?」
「わ、わたしが?」
「何、驚いてんだよ。その杖、見てみろよ」

 右手は確かに何かを握っていた。少女は恐る恐る右手を見てみた。その右手には、夢の中で持っていた、あの杖があった。その杖からは、真紅の血が滴り落ちていた。

「わ、わたしが倒していたのは魔物だよ!?」
「……魔物。そうだな、魔物だな。だが、お前にとってはこいつらも魔物と同じだろ?」
 少年は不気味な笑みを浮かべながら、説明を始めた。

「お前は『みんな消えちゃえ』って言ってたじゃねーか。だから、俺は力を貸しただけ。お前だって楽しそうに殺してたじゃねーか。忘れたのか?」
「わ、わた、わたしがそんな……」

 少女は記憶を辿ってみた。忘れていた記憶の中に、確かに思い当たる節があった。自分のこの手で、両親やクラスメイトを殴り殺していた映像が頭を過ぎる。
 記憶を遡っていると、少年が促した。

「都合の悪いことだけ記憶から消せるんだな。だがな、まだまだ人間は居るぜ? とっとと次に行こうぜ」

 少女は頭の整理がつかなかった。しばらくは体の震えが止まらず、夢だと自分に言い聞かせていた。
 しかし、現実に目をやると、自分のしたことを吹っ切ることが出来た。

「…………そう、だね。簡単に壊れる人間なんて必要ない。みんなを消しにいこう!」
「そう言うと思ってたぜ。行くぜー!」
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