現今言表

□夜空に耀く華
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 −プロローグ−

『俺、お前が村に帰ってきたらとっておきのモノ見せてやるよ! だから必ず、帰って来いよ!』

 わたしは自分のやりたいことをやるために、住み慣れた村を離れて都会に来た。自分勝手なことだけど、幼馴染みの毅乍(-キサ)は『自分の夢を叶えて、必ず村に戻って来い』と言って応援してくれた。

 それからわたしは上京して、村と都会の違いに驚きつつも大学で猛勉強し、研修期間を乗り越え資格を貰い、医者になることが出来た。だけど、まだ村には戻ることが出来なかった。
 わたしが都会に来た理由は、医者になること。でも、それ以上の目標が、村に診療所を設けること。村には診療所もなければ医者の知識を持つ者も居ない。医者の居る所へは、数時間もバスに揺られた先の遠い別の村に行かなければならないのだ。今戻って医者としては働くことが出来ても、治療する場所、つまり診療所がないのだ。そのため、わたしはしばらく資金集めのために働いた。
 その間に付き合った男性とも結婚し、息子も生まれてとてもしあわせだった。けれど、共働きでお互いに忙しく、子供の世話も押し付けあって、わたしたちは破局した。子供の親権はもちろんわたしが得た。あんな男に任せるなんて出来なかったから、女で一つでも息子を育てようと決意をした。けれど、まだ幼い子を一人で家に居させたり、不定期な医者の仕事は精神的にわたしを苦しめた。たまには息抜きをしようと、今年の夏休みは息子を連れて故郷に帰ることにした。
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