自分的青春論。

□第一話
1ページ/3ページ




「来い」


 男は、言った。真っ黒な服から、ポタポタと紅い雫を垂らしながら。
 紅に染まる床になど目もくれず、目の前に居る少女に、手を差し出した。


「……私が行けば、他の者には危害を加えないのですね?」


 シャラン、と少女の手首にある白い鈴が鳴った。その鈴には、不思議な紋章が刻まれている。
 純白のドレスを身にまとう少女の瞳は、真っ直ぐに男を見据え、強い決意が見て取れた。


「そうだ。お前さえくればいい」

「……わかりました。貴方についていきます」


 少女の後ろで、倒れている青年が目を見開く。
 口を動かすが、決して声は出なかった。

 少女は、男が差し出した手を取った。
 手首の鈴が、またシャラン、と鳴った。


「ふん。それでいい」


 そう言うと、男は呪文を唱え始めた。――それは、小さな紙を見ながらの、たどたどしいものだった。
 少女は、視線を鈴に落とす。


(……役立たずね)


 少女と男は消えた。
 倒れたままの青年は落胆の表情を浮かべた。

 その瞬間、ドアが大きな音を起てて開いた。


「――!? おい、そこの! 何があった!」


 部屋に、剣を構えた青年が続々と入ってくる。
 その内の一人が、倒れている青年に話し掛ける。


「……遅、すぎた」


 倒れている青年は、掠れた声でそう呟いた。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ