自分的青春論。
□第一話
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「来い」
男は、言った。真っ黒な服から、ポタポタと紅い雫を垂らしながら。
紅に染まる床になど目もくれず、目の前に居る少女に、手を差し出した。
「……私が行けば、他の者には危害を加えないのですね?」
シャラン、と少女の手首にある白い鈴が鳴った。その鈴には、不思議な紋章が刻まれている。
純白のドレスを身にまとう少女の瞳は、真っ直ぐに男を見据え、強い決意が見て取れた。
「そうだ。お前さえくればいい」
「……わかりました。貴方についていきます」
少女の後ろで、倒れている青年が目を見開く。
口を動かすが、決して声は出なかった。
少女は、男が差し出した手を取った。
手首の鈴が、またシャラン、と鳴った。
「ふん。それでいい」
そう言うと、男は呪文を唱え始めた。――それは、小さな紙を見ながらの、たどたどしいものだった。
少女は、視線を鈴に落とす。
(……役立たずね)
少女と男は消えた。
倒れたままの青年は落胆の表情を浮かべた。
その瞬間、ドアが大きな音を起てて開いた。
「――!? おい、そこの! 何があった!」
部屋に、剣を構えた青年が続々と入ってくる。
その内の一人が、倒れている青年に話し掛ける。
「……遅、すぎた」
倒れている青年は、掠れた声でそう呟いた。