自分的青春論。
□第三話
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「……う、ん」
ぐ、と延びをする。
体が重たい。
「起きたか?」
耳に染み込む声。
この声、は……
「っ、……ここは……?」
目を開けると、さっきまで私が押さえ込んでいた男。
さっきまで香っていた草の匂いがしない。
私は仰向けで、体の上に布が乗っている感触がある。
私が言葉を発すると、男は私から――ニット帽を深く被っていて目が見えないから、私を見ていたかどうかはわからないけど――顔を逸らした。
……ネコ耳っぽい形に角が立っているニット帽。……そのセンスどうなんだろ。
「ユーリ、ユーリ!」
ドアに向かって男が声をかけている。
私に向ける声とは違う、柔らかいトーンだ。
……ドア、つまり、私は室内に居る。
拉致、監禁……そんな言葉が頭を過ぎって、眉を寄せる。
(……とりあえず、言葉は通じるんだよね、と)
日本であれば、帰れるかもしれない。そんな期待をしつつ、上半身だけ起こして部屋を眺める。
私が寝ていたのは、木製のベッド、シーツはピンク……ん? ピ、ピンク?
……男が座っている椅子も木製。
床はフローリングで、壁は小さいアスタリスクマークが浮き出た感じの、真っ白な壁紙。
タンス、全身鏡、小さな棚にはブラシとかが放置してある。
窓もあるみたいで、カーテンは薄い青。
ベッド以外は、シンプルな部屋。
「なぁに、ジャム。今パック中……起きたのね」
ガチャ、と音がして、その後に高い声が続く。
初めて聞く声に振り向くと、濃い目の金髪を、耳の上辺りで二つ縛りにしている女の子が居た。
その女の子は、顔についている……パックを少しずつ剥がしながら、私を見て言葉を吐く。
その声が幼い顔に合わずすごく冷たくて、思わず身震いした。
女の子はセーラー服、男は学ラン。
私の住んでいる地域にある、中学校の制服だ。
年下だ、ビビる事はないと自分に言い聞かせる。
友達の妹が全く同じ制服を着ていたから多分間違いない。
私が今居る場所も、意外に家の近くかも……
……と思ったら、胸元にあるはずの校章が、ない。
――どうしよう、金髪だし、ヤンキーかな?
校章がないことで、一気に不安が押し寄せた。
「貴方、名前は?」
「………っ?」
「名前を言って下さるかしら、それとも何か名前を言えない理由でも?」
私は考え込むとうつむく癖があるようで、おそらく自分に向けられた言葉であるそれに、素早く顔を上げる。
でも、全く聞いていなかったから返事が返せない。
そのまま黙っていると、嫌味かと思うほど(多分嫌味だね)丁寧に言われ、今度こそ返事をしようと口を開けた。
「お……桜花、です?」
「なんで疑問系なのかしらね? うふふふふ……もしかして、偽名だったり?」
ニコニコと笑いながら、女の子がベッドの端に座ってきた。
私側の右手をベッドに、左手を揃えた足のふとももにおいて、首を傾げる。
可愛い仕種のはずなのに……丁寧な言葉使いのはずなのに、言い方が怪しんでいるとしか思えない。
……普通は私が怪しむ立場のはずなのに。なんだかなー。