自分的青春論。
□第三話
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「桜花だよ、嘘じゃない。えーと、あなたの名前は?」
「あら、ごめんなさい。
人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀なのに……
申し遅れましたわ、わたしはユーリ・クラウム、ユーリと御呼び下さいな。」
ふとももに乗せていた手を口元に宛て、一瞬驚いたような表情を見せる。
女の子は、音も起てず立ち上がると、こちらを見つめ、言った。
礼儀正しい、というか……堅苦しい言い方で、まるで私が無礼だと言いたいかのように静かな笑みを浮かべている、ユーリ。
「ユーリ……可愛い名前だね」
聞き慣れない響きの名前だけど、純粋に、可愛いと思った。
ユーリ、そんな名前だったらよかったな。
桜花、なんて、漢字がいいだけで男みたいな響きだもん。
名前にあう顔だ。大きい目にあひる口、まさに女の子、って感じ。
そんな事を考えながら、ユーリを見つめる。
大きい二重の目を更に大きくして、薄く開かれた淡いピンクの唇が微かに揺れる。
「っジャム!
この子とってもいい子じゃないの!
あなた、桜花さんでしたかしら? お腹減ってません? 減ってるわよね! ケガしながらジャムの相手までしたんだもの! さあ、お顔を洗っていらして! ジャム、案内致しなさい! わたしは食事の準備しておきますわね! うふふふふふふ〜!」
「えっ、ちょっ、ユーリ!」
マシンガントーク、というものを初めて見ました。
ニット帽の男(多分ジャム、って名前だろうな)を丸無視して、ドアは閉められた。
……強烈。
呆気にとられる私と、呆れたようにため息を吐くジャム。
ジャムがゆっくりとこちらを向いて、はっとした。
「……こっちだ。着いてこい」
冷たい、いや、違う。
貫かれるような、視線。
目は見えないのに、私を見ているのがわかる。
――目は口ほどに物をいう、というけれど
たとえ目が見えなくとも、まとう雰囲気がそれを伝える。
――私は、敵視されている
野原?で首になにか宛てがわれた時と、まったく変わらない
一触即発、そんな空気。
ユーリがあんなテンションにならなければ、きっとユーリも私を敵視していたんだろうな。
つか、私が可愛い名前だと言うまでは、ユーリもこんな視線だった。
たった一言で、視線が変わるものなんだね。
「あ、待って!」
ジャムが椅子から立ち上がったのを見て、急いでベッドから下りる。
この人達は、なんなんだろう。
胸に渦巻く不安を無視して、背中を追いかける。
まあ、どうせ私二回くらい死んだようなもんだしね……どうせもっかい死ぬならお腹いっぱいで死にたい。
ご飯美味しいといいな、そう思いつつジャムがドアを開く音を聞いていた。