□■ ノベル ■□

□ダブル・デート<2>
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 性格からか約束していた時間よりかなり早めに待ち合わせ場所であるいつもの公園に着いた万葉は、入り口付近の植え込みの縁に浅く腰掛けて、2週間ぶりに会う杉本の事に思いを巡らしていた。
 今朝、約束通りにモーニングコールを鳴らすとたった1コールで繋がった。

『おはよう、万葉ちゃん』

「オハヨ、なんだ、もう起きてんじゃないか」

 せっかく起こすために電話したのに、すでに起きていては意味がない。
 残念そうに答えた万葉に杉本は一言謝ってから後を続ける。

『あなたの声が聞きたくて聞きたくて、目が覚めちゃったのよ。それにほら、あたしって寝起き悪いから朝から気分害したくないし』

「知ってる。最悪だもんな、おまえ」

 過去に一度だけ見たことがある杉本の寝起き。

「・・・口にするのも恐ろしい」

『なんだか最近ヒドイ言われようね』

 できる事なら、もう二度と見たくない杉本の一面である。

「じゃあ、9時に待ってるから」

『ええ、ちょー特急で用意して行くわ』

 また後で、と万葉から先に電話をおいた。

「早く来ないかな、杉本」

 と、その時、

「ちょっと、何であんたがここにいんのよ」

 万葉の視界に綺麗な脚がうつり込んだと思ったら、上から声が降ってきた。

「それはこっちのセリフだよ」

 よく知った声に万葉は顔を上げる。
 案の定、腰に両手を当て仁王立ちした扇子がいた。
 薄いピンクのレース付きカットソーに膝丈のスリットスカート、それに同系色のミュールを合わせた、いかにも気合い入ってます的な扇子の格好に万葉はつい口が滑る。

「はっはーん♪、本庄さんとデー・・・」

 ガッッ。
 皆まで言わせす扇子の脚が万葉の向こう臑を蹴り上げる。

「っ・・・、痛ってぇな扇子っ」

「フンッ、あんたが余計なこと言うからじゃない。そーゆーあんただって杉本さんとデートでしょうが」

「うっ。ま、まあそうだけどさ」

 簡単に図星を指されて、万葉は反論できずに言葉に詰まる。
 万葉も今日は杉本のリクエストにより、オフホワイトのミニのキャミソールワンピを着ている。というか、リクエストに応えている辺りでダメダメである。

「人の事、言えた義理じゃあないわね」

「・・・そっちだって一緒」

「何か言ったぁ?」

「いや、何も」

 万葉は反論しかけたが扇子の後ろに狐の姿を見たような気がして、それ以上は危険だと口を噤む。そのまま魂を吐かれては、何をされるかわかったものではない。

「それにしても、何で同じ所で待ち合わせなのよ」

 本庄への文句をブツブツと言いながら、扇子は万葉の隣に腰を下ろす。

「所詮、親友は考えることも一緒ってことか」

「あのタレ目がこんなヘマすると思う?」

 こんなヘマとは待ち合わせ場所のブッキングのこと、しかも杉本とだ。

「・・・するわけないよな」

 杉本も本庄も、お互い知っていたとすればきっと変更するはずである。邪魔をしない様、と言うより、邪魔をされない様に。
 どうやら今回は本当に偶然らしい。

「ま、近所の公園じゃあ仕方ないよ」

 4人とも、かなり利用率の高い場所ではある。

「で、万葉は何時の約束なわけ?」

「扇子こそ、この時間にいるってことはさ」

『・・・9時か』

 口に出して言うまでもなく分かり切った答えに、お互いに顔を見合わせて溜息を吐く。
 これまた偶然なのだろうが、ここまで同じだと逆にはめられたような気持ちになってくる、様なこない様な。
 デートの前からすでに疲れ気味の二人だった。

「さもこの世の終わりってな顔付き合わせて、何やってんだ」

 傍目にもはっきりとわかる程びくっと肩を振るわせて、扇子が声の主を振り仰ぐ。
 つられて後を追うように万葉も顔を上げた。

「よぉ秋吉、おはよーさん」

「あ、お早うございます、本庄さん」

 煙草片手に相変わらずの悪人ヅラ(扇子談)をした本庄がそこにいた。

「こんな朝から何連んでんだ、お前ら」

 何もわざわざ俺様との約束の日に、と言わんばかりの目で見下ろされて、つい扇子は悪態を吐く。

「何よ、居ちゃ悪い?」

「俺は一言も悪いとは言ってないぞ」

「っ・・・、さっきこの世の終わりの様な顔って言ったけど、えっらそーに言うからにはこの世の終わり、見たことあるんでしょうねっ」

 本庄はすでに言っている事がズレている扇子の顔をじぃっと眺めてから、フウッと呆れ顔で息を吐く。

「言葉のあやもわからんのか」

「ぬわんですってぇー」

「あーもう、扇子。落ち着けって」

 今にも噛み付かんばかりの扇子を、万葉は後ろから羽交い締めにして必死で止める。どうしてこう、この二人は顔を合わせる度にケンカ腰になるのか。
 二人に見えぬよう、ははっと万葉は乾いた笑いをもらした。
 本庄に至ってはわざとやっている様に思えるのは、万葉だけではないだろう。しかし扇子もそうと分かっていながら、いとも簡単に毎回同じ手に引っ掛かっている。
 万葉もその場に居合わせたがために、毎回付き合って被害を受けている。
 そして更に、最も被害を被っているであろう杉本真紀。
 案の定、やっぱり今回も不幸はやって来るのだった・・・・・・。



To be continued ... ?? (02/05/29)


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