□■ ノベル ■□

□不幸の手紙…?<2>
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 指定された時間より20分早く公園に到着した兄弟達は、取り敢えず時間までに園内に不審な人物がいないか見回る事にした。
 公園の正面入口から二手に左右に分かれて探索を開始する。
 始と余、続と終のペアに分かれたのは、もし誰カサンと遭遇したとき十分な対処が出来る様にと始が決めた。
 とは言っても、彼女に真正面から向かっていっても敵う訳がないのは重々承知しているので逃げる事しか出来ないのだが。
 約束の場所であるこの公園は、竜堂兄弟達の通う共和学院の丁度裏手に位置している。
 都心には珍しく緑の多い公園で、学院の生徒達はもっぱら休息の場として利用している様だ。
 そう広くもない園内なので、両ペアとも5分程度でもとの入り口に戻ってくる。

「別に普段と変わりがない様ですよ。家族連れが何組か、遊具の所に居ましたけど」

「こっちもだ。小学生が広場で遊んでいた位か」

「あと噴水の所に女の子が一人居たね」

「怪しいヤツなんていないじゃん」

 自分の目でしっかりと公園内を確認して、少しは浮上したのかほうっとため息を吐き出した。
 冗談以外でこの終がため息を吐くなど、よっぽどの事だ。
 だがしかし、容赦のない一撃。

「安心するのは早いですよ。まだ正午になってませんから」

 これから現れるかもね、と続は突き落とすのを忘れない。

「こら、続」

 目に見えて撃沈した終は頭を抱えて屈み込んだ。

「何でオレなんだよ。普通こういう類って続兄貴の専売特許じゃん。しかもあのオバハンだし」

「可愛い女の子ならいいの?」

 余は撃沈している終の傍に立ち、軽く身を屈めさらっと訊いてみる。
 終は三秒程思案したのち、当然のように答えた。

「茉理ちゃんの様な美味しい物くれるコなら考えてみなくもない」

「お前の基準はその程度か」

 終らしいと言えばらしいが、他にもっと言いようがないものか。

「続兄貴なら自分より綺麗なコだろ」

「始兄さんは茉理ちゃんが理想だしね」

 無邪気の笑みで余に見上げられ、始は話題を逸らすため一つ咳払いをした。

「いいのか終、そろそろ約束の時間だぞ」

 そう言って始は腕時計を填めた左腕を弟達の前に突き出した。
 時計の針は11時53分を指している。

「恐怖の時間到来ですか」

 三男で遊んでいた続もさすがに一瞬緊張した面持ちになる。

「ここでいいのか」

「そうですね、公園という指定はありましたけど、細かい場所までは書いてませんでしたし」

 確かに手紙には『正午に公園で』と指定はあったが、それだけで分かるほどこの公園は狭くもない。

「でもここが一番分かり易いんじゃないかな。それか中央の噴水のところ」

 一番下の弟の提案に続と終も賛同する。

「公園内は一応見ましたし、この正面入口でいいんじゃないですか」

「中にいたら逃げれないじゃんか。ここでいい」

 終の意見は無視したとして、始としても異論はない。

「それじゃあ、終を残して俺たちは隠れるか」




「もう来ないのかな」

 正門の所へ終を一人残し、目の届く範囲で木々の茂みに隠れていた兄弟達の中から、余が始の腕時計を確認して呟いた。
 時計の針は指定の時間をゆうに超え、現在12時21分。
 終は長時間の緊張からか、車止めの柵を背に待ちくたびれて座り込んでしまっている。

「やっぱりイタズラか」

 神経と体力を無駄に遣いはしたが、本当のところ例の女性が現れてくれなくて取り敢えずほっとする。
 きっとイタズラだろうと高を括っていたが、もしここで現れていたら、さすがに始もどうしたら良いのかわからない。

「でも兄さん、イタズラだとして誰がこんなことを?」

 安堵した始へ冷静に続が返してくる。
 確かに続の言う通り、『小早川奈津子』という人物を知っていて、なお且つ竜堂家との関わりをも知っていないとできない嫌がらせだ。
 ただのイタズラでは済まされないのかもしれない。

「だとしたら、誰が一体何の目的で」

『・・・・・・!』

 その時、とても聞き覚えのある音が微かに始の耳に届いた。

「・・・続、今の音はきっと俺の幻聴なんだろうな」

「いえ、残念ながら僕にも聞こえましたよ。兄さん」

 そして今度ははっきりと兄弟全員の耳に届いた。

「おーっほほほほほほっ!」

 凄まじいほどの大音響に、へたり込んでいた終も慌てて立ち上がり茂みに隠れていた三人も急いで駆け付ける。

「今度は確かに聞こえたぞ」

「奥の方からだったね」

 余のセリフに合わせて公園の中心の方を振り返った四人は、計ったかの様にタイミング良く、青々と生い茂った木が轟音を立てて倒れるのが視界に入った。

「なあ余、今のも見間違いだと思うか」

 続はぴしゃりと言い放つ。

「そんな訳ないでしょ。触らぬ何とかに祟りなし。彼女が現れる前に行きますよ」

 珍しく中途半端に濁す次兄に余は疑問を口にする。

「何とかって、神様じゃないの?」

「あのオバハンが神様なもんか! あ、でも疫病神とか破壊神とかなら」

「グダグダ言ってないで、ほら行くぞ」

 始も早々にこの場を立ち去ることに決め弟達を先に行かそうとした時、丁度公園の中程から女性の悲鳴が上がった。

「しまった、他に人が居たんだったな」

 先程見回った時には何人か噴水の所に居たはずだ。
 あくまでも、もし自分達のせいでかの女性が現れたのなら一般人を放って行くわけにはいかない。
 始は弟達に前へ出ないよう言い置いてから、身を翻し駆け出した。



To be continued ... ??(01/09/13)


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