+ くらっぷ +
□第3弾 ドラコ
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今日は一日、どこにいても暑くて。
ローブどころか、セーターや、果てにはネクタイまでも取り去られ。
ほとんどの生徒が、だらしのない格好でそこかしこにいた。
いつもはきっちりと制服を着ている方だけれど、今日ばかりは我慢できず。
ローブは元から寮に置いてきて、一応朝は着ていたカーディガンは、今は手の中にある。
それに対して。
涼しい顔、とまではいかないけれど。
この暑さの中、スリザリンカラーのセーターを着たまま、すぐ隣りで読書中のドラコ。
「暑く、ないの?」
「暑くない訳じゃないけどな」
口ではそう言いながらも、制服を着崩す事はない。
さすがにシャツの第一ボタンは外されているけれど、ネクタイも軽く緩めた程度で、セーター姿のまま。
質の良いウールのセーターは、英国の雪深い時期には良いけれど、今日みたいな日には不向きだ。
見ているだけでも暑そうなのに、こんな傍にいられたら、こちらまで暑くなってくるではないか。
「脱いで」
「…、は?」
何を言われたのか瞬時に理解できなかったようだが、そんなのはさらりと無視して、さっきまで目を落としていた本を取り上げた。
「いいから。脱いで、これ」
本をドラコとは反対側に置くと、強引に彼のセーターの裾に手を掛けた。
「わかった。わかったから、その手を放せ」
無茶な要求に、ドラコは渋々ながらも、言う通りにセーターに手を掛けてさっと引き抜いた。
「ほら、これで良いんだろ」
脱いだセーターを片手に、ドラコは乱れた髪を手ぐしで整える。
その伸びた背筋に、この陽気で、薄っすらと汗ばんだシャツが、体のラインに沿ってくしゃりと張り付いていた。
「あ…」
ドラコって、こんなに。
「やっぱり、いい。着てていいからっ」
脱げと言った端から、着ろと言ったり。
さすがにちょっと機嫌を損ねた声が耳に届く。
「なんなんだ、一体」
けれど、そんな事はどうでも良くて。
「ただ、ちょっと」
問題は、別の事。
思いの外、ドラコの体格が良くて、びっくりしたなんて。
青白く見えるくらい色白で、そこらの女子生徒よりもひょろりと細っこくて。
ずっと、そう思っていたのに。
いつからこんな、男性的な身体付きになっていたのか、全く知らなかった。
シャツ一枚に透けて見える、しっかりした肉付きに、まさか、目のやり場に困るなんて。
けれど、本当の事なんて、恥ずかしくて言える訳がない。
「えっと、ごめん、なさい」
もう、素直に謝って、誤魔化すしか。
「だから、着てください。お願いします」
訝しそうな顔で見返されて、苦笑を返す事しか出来そうにない。
心の準備が整うのは、まだちょっと先の事になりそうだ。
...End... (2010/05/07)