+ くらっぷ +
□第1弾 オラトリオ
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「あっ、痛っ…」
第二研究室で作業中、ぺらりと書類を捲った拍子に、指先に鈍い痛みが走った。
じんじんと熱を発し始める箇所をそっと見てみれば、爪の下の皮膚の薄い所に小さく赤い筋。
「ん、どうした?」
「ううん、ちょっと切っただけ」
咄嗟に声が出たものの、そう大した傷でもないので、オラトリオの前で手をひらひらと振ってみせる。
こんなもの、怪我の内にも入らない。
「見せてみろ」
強引に腕を取られて、手首を掴み上げられる。
お互いに椅子に座っているとはいえ、身長差があるから少々辛い体勢だ。
「大丈夫よ、こんなの舐めとけば治るから」
「ふーん」
手を放して欲しくてそう言えば、何を思ったのかぐいと腕を引かれると、ぱくん、とその口にくわえられた。
「…!?」
まさか本当に実行するとは思わなかっただけに、吃驚して硬直する。
傷のある指先を、熱い彼の舌が、ざらりと舐めていく。
ほんの少しだけ、ぴりりと痛んだ。
「よし、止まったな」
指から口を放した彼は、傷口を確かめて、血が出ていないのを確認する。
「な、なんて事するのよ、アンタは!」
やっと硬直から溶けて身を引けば、案外あっさりと腕を放される。
確かに血は止まってはいたが、じくじくとした痛みは余計に酷くなった様な気がする。
ついでに頭痛までしてきた様な気がして、頭に手を当てた。
「お前が言ったんだろうが」
「言葉の文でしょ、文っ!」
悪びれもせず、けろりと言いのける男に喰って掛かってみたところで、勝ち目など無いのは分かっているけれど。
「…信じらんない、もう」
してやったり、とにんまり顔をする目の前の男が、何とも憎々しかった。
...End... (2009/07/26)