+ くらっぷ +
□第1弾 ドラコ
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「痛っ!」
「どうした!?」
指先に走った痛みに声を上げれば、向かいに座っていたドラコが吃驚して顔を上げた。
「んー、大丈夫」
咄嗟に手の平で包み隠した手をそっと開くと、人差し指の腹にすっと走った赤い線からじわりと血が滲んでくる。
「ちょっと紙で切ったみたい」
どうやら教科書を捲った拍子に、紙の端で切れたようだ。
傷口をよく見ようと、ほんの少し指先を押してみれば、ぷっくりと血の玉が浮いて出てくる。
「大丈夫ってお前、血が」
「このくらい平気だって。血なんてすぐ止まるし」
男の人は血に弱いって言うけれど、いくらなんでも、大袈裟だと思うのだが。
「医務室に行った方がいいんじゃないか?」
「別に大した事ないから」
わたわたと落ち着かな気に、だからと言って、取り立てて何も出来ずに行動力に欠ける。
どう見ても、狼狽え過ぎだ。
「でも消毒しないと化膿したら」
「…あのねぇ」
徐々に声高になっていく二人の遣り取りに、周りからちろりと睨まれて、この場所が図書室だというのを思い出す。
「おいって」
「うるさい!」
「…」
ぴしゃりと言い放つと、ドラコは開こうとしていたぐっと口を噤んだ。
その時遠くで司書のものらしい咳ばらいが聞こえる。
ここから追い出されるのも面倒で、机越しに顔を寄せると、一気にトーンダウンした声音でひそひそと言う。
「狼狽えすぎよ、何ともないって言ってるでしょ」
彼も顔を近付け、机の上に乗せられた傷付いた指先を見下ろした。
「けど、お前のその綺麗な指に傷なんて」
思ってもみない事を言われて、内心こっそりと溜め息を吐き出した。
こそばゆいやら、恥ずかしいやら、赤面ものだ。
それを真顔で言われた方は、どう反応したら良いのだろう。
「あの、気持ちは嬉しいけど、平気だから、ね」
「じゃあ、せめてこれくらいしておけ」
そう言って彼がポケットから取り出したのは、綺麗に畳まれた真っ白いハンカチ。
それを広げると、何ともたどたどしく、血の滲む指先に巻き付けて、少しきつめに括りつけた。
「これで良い」
「あ、ありがと」
慣れない仕草で意外な事をする彼に、自分の事を案じてくれたというのは凄く嬉しくて。
けれど、満足そうな表情をする彼に、言い出せない事が一つ。
これ位の傷ならば、杖を振って簡単に治せてしまう便利な呪文がある、という事だった。
...End... (2009/07/26)