□■ アンダァ ■□

□ボクの救世主<1>
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 痛イ、痛イ、痛イ───。

───誰カ、僕ヲ助ケテ。



 後ろなんて一切振り向かず、目一杯足を動かした。
 僕のそんな姿を見てせせら笑う奴らの顔が、背中越しに感じる。
 いや正確には感じるんじゃない、見えるんだ、頭の中に。

 毎日繰り返される、いつもの光景。
 殴って蹴って、金を巻き上げて。
 歪んだ優越の笑いを浮かべて、逃げ出す僕を嘲笑ってる。
 ギャラリーも、遠巻きに眺めるだけ。
 すでに日課になっているとでもいう様に。

 授業開始を知らせるベルが鳴る中、僕もまた走ってる。
 いつもの、頼りない非難所。

 人の流れに逆らって、廊下を走り抜ける。
 すり抜ける時に接触した肩に、罵声が飛んでくるけれど。
 止まって謝る、なんてやってる状況じゃない。
 校舎の一番端、人気の無いトイレの個室に逃げ込む。

 いつもの様に、タイルの床に座り込んで。
 いつもの様に、トイレットペーパーで鼻血を拭う。

 "Fuck you"なんて吐き捨ててみても、相手がいる訳でもなく。
 ただ一人で空しく、膝を抱えるだけ。

 僕だって、好きで暴力を受けている訳じゃない。
 けれど反抗すれば、さらに行為はエスカレートして。
 自分じゃ、どうにもならないんだ。

「僕だって」

 皆と日の当たる場所に立ちたい。
 堂々と胸を張って、学園生活を楽しみたい。

 知らずに涙がこぼれ落ちる。
 ぱたぱた、と音を立てて、薄汚れたジーパンの膝に染みを作ってゆく。

 暴力を止めさせる事も、助けを求める事も。
 声を上げる事が出来ない自分が、酷く情けなくて。
 止まらない涙に、せめて嗚咽だけは出さない様にと、きつく唇を噛み締める。

「悔しいよ・・・」

 そう、ぽつりと呟いて、立てた膝に顔を埋めた。



 廊下から話し声が聞こえた様な気がして。
 ふと膝の上で組んだ腕に巻かれた時計に目をやると、既に1限目も半ばを過ぎていた。

 毎日、1限目の授業はサボってる。
 途中で戻ったところで注目を集めるだけだし、教師は何も言わない。

 取り敢えず、汚れている顔を洗おうと、床に手を付いた時。

 バァンッ、と叩き付けられた大きな音がして、ハッと顔を上げると。
 一体、何が起こったのか理解する暇もなく。

「ひゃっ・・・!」

 何かが体当たりした様な、激しい音と振動が背中の板壁から伝わってきた。
 突然の出来事に、思わず息を詰めて両足を掻き抱く。

「わ、悪かったって・・・。二度としないからっ」

「そうだな、二度目はねぇよ」

 懇願する男に対して、容赦のない男の声に被るように、鈍い音と呻き声。
 良く知っているその音に、僕は反射的に身を竦めた。
 それは僕が、毎日受けている行為。

 痛くて、苦しくて。
 殴られた箇所が、蹴られた箇所が熱を持って。
 裂けた皮膚から、血が流れて。

 未だ続く、暴行の音に。
 自分が攻撃を受けている錯覚を受ける。

 僕は聞いていたくなくて、耳を塞いだ。

 ──助ケテ。

「・・・誰かいるのか?」

 嫌な音が、ピタリと止む。
 見付かった。
 僕は耳に当てていた手で、身を守る様に頭を抱えた。



To be continued ... ?? (03/09/26)


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