□■ ノベル ■□
□平和な日常
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「相変わらず、情けないやっちゃなぁ」
「どうかしましたか?」
丁度リビングの前を通りかかったカルマは、オラトリオの声に両開きのドアを開けて部屋に入って来た。
と、途端カルマはガックリと肩を落とす。
「またやったんですか、あなた達は」
「そう、いつもの如くパルスとシグナルがな」
呆れながら誰ともなしに言ったカルマに、一番近くにいたオラトリオが答える。
続いてハーモニーも一応フォローをしてみる。
「信彦がシグナルをちびにしたから被害は少ないと思うよ」
しかし、いくら少ないと言っても戦闘型ロボットが戦うのだ。無事ですむ訳がない。
確かに家自体は無事だが、ソファやカーペット等、家具類はメチャクチャになっている。
「一体誰が片付けると思ってるんですか」
カルマは部家の中にいるオラトリオ、パルス、シグナル、ハーモニーに端から順に視線を投げる。
「もちろん、誰か手伝って下さいますよね」
カルマの発せられる言葉に力が入る。
「そーいやオレ、オラクルに用が」
「あ、オラトリオ」
真っ先にカルマの怒りを察知したオラトリオは、そそくさとリビングを出て行こうとする。
「おいっオラトリオっ」
「わっはっはー、すまん弟よ」
豪快に笑い声を上げ、パルスの呼ぶ声も無視して、開いていたドアをきっちり閉めてオラトリオは出て行った。
「さすが年寄りロボットだねー」
うんうんと頷きながら言うハーモニーを後目に誰も、「自分の方が年寄りだろう」とは突っ込まなかったが、内心カルマもパルスも同じ事は考えていたことは明らかである。
なんと言ってもハーモニーは世界初のヒューマンフォーム(人間形態)ロボットなのだ。
「まぁオラトリオは仕事が溜まっているでしょうし」
仕方がないとして、とカルマは言うと、
「片付けはパルス君にお願いしましょうか」
「えっ、私が」
しごく当然といえば当然だが、手近にいたパルスに任命される。
「本当はシグナル君にもお願いしたいのですが、信彦さんは学校に行かれてしまいましたので、小さいまま
では片付けはできませんしねぇ」
「いや、しかし・・・」
「はいこれ、お願いしますね」
一体何処から出したのか、カルマの手にはしっかりとほうきが握られていた。
「・・・はい」
「ハーモニーもパルス君を手伝ってあげて下さいよ」
パルスの肩に腰掛けていたハーモニーにも言うとカルマは腰をかがめ、珍しく大人しくしているシグナルに言う。
「シグナル君もお片付け、お手伝いお願いできますか?」
普段のシグナルなら喜んで返事をするはずだが。
「・・・」
どうも様子が変らしい。
いつものちびにはない反応だ。
「シグナルーぅ」
「どうしたんですか、シグナル君」
先程暴れた時に頭でもぶつけたのか、心配になったカルマとハーモニーはシグナルを覗き込む。
「・・・大きい君よわいです、パルス君にいっつも勝てません。オラトリオおにーさんにも勝ったことがないですぅ」
「は?」
「でもボクだとパルス君はけんかしませんし、オラトリオおにーさんのおぼうしも取っちゃったのはボクです」
「ちび一体どうしたのさ、ねぇってば」
しかし自分の世界に入り込んでいるらしく、ハーモニーが頭のまわりを飛び回って呼びかけているのにも何の反応も返さない。
余程真剣な事を考えているのだろうか。
しばらくちびのまわりを飛んでいたハーモニーだったが、反応しないちびにいい加減飽きたのか、飛ぶのをやめてパルスの肩に戻る。
ちびらしくないちびの反応にどうしたものかと三人は困惑する。
数分間の沈黙・・・。
ちびの体がぴくりと動き、ぽそっと呟く。
「ということは・・・」
「ことは?」
カルマがちびの言葉尻を取って続きを促す。
「ぼくが一番つよいのでーっす。ぼくにはだれも勝てませんっ」
「・・・は?」
突然何を言うかと思えば、だ。
「ぼくが一番えらいのでっす」
ちびの突発的な発言に3人はさらに困惑する。
「ちょっと待て、シグナル」
「シーグナールっ」
「だれもさからうことができないのです」
誰の呼び掛けも耳に入らないらしい。必死で止めるにも拘わらず自分の世界に入ったままだ。
先程のパルスとの乱闘できっと頭でもぶつけたのだろう。
音井教授を呼ぶべきだろうかとパルスは思案する。
この騒ぎが聞こえていないとすると、教授達はもう研究室にいるらしい。
「ぼくはさいきょーでーす!」
「ダメか・・・」
教授を呼びに行こうとパルスがドアノブに手を掛けたところで、ドアが勢いよく向こう側に開いた。
「うわっ」
当然、
「ぶっ・・・」
床とご対面である。
「あら、いたの。悪かったわ」
一応謝りはするものの、全然自分は悪くないような口調で入って来たのはクリスだ。
「もうちょっと注意して入ってこれんのか」
手を着く暇もなく顔からいったのか、鼻の辺りをさすりながら立ち上がる。
文句を言うパルスに、クリスはさらっと切り返す。
「そんなの、向こう側からこっちが見えるわけないじゃない」
「確かにそうだが」
あっさりと正論を返され、パルスは言い返せずに口を閉じる。
パルスは気付いていないが、口でクリスに勝ったことは過去一度もないのだった。
「ちょっとパルス、ちびのヤツどうしたの」
クリスの問いにパルスはぶっきらぼうに答える。
「どうもバグ持ちのところへ、さらにバグったらしいな」
「えーっ」
迷惑な、とクリスは付け足してちびをじっと上から見下ろす。
シグナルは相変わらず訳のわからない事を叫んでいる。
それを暫くの間見ていたクリスは、ふとちびに問う。
「あんたが偉いのはよーっくわかったけどさ、それで何がしたいのよ」
今まで呼べと叫べとも人の話を全く無視していたにも拘わらず、クリスの問いにピタッとしゃべるのを止め、ぱっと顔を輝かした。
「よくぞ聞いてくれました」
「聞こえてるんかいっ」
ハーモニーがつっこむ。
自分に都合のいいことは聞こえるらしい。
「そーです、そーなのです。ぼくが言いたいのはですねー」
とても重要なことなのか、語尾を伸ばして勿体付ける。
「ぼくが一番ということは、なんでもできちゃうのです」
その場にいた4人は、何だかイヤな予感がする。
「ということはっ! チョコのたべほーだいでっす!」
「・・・」
「せかい中のチョコがぼくのものですーっ」
4人は呆れてものも言えずにたちつくす。
わかってはいたのだ、所詮ちびの考えつくことである。
真面目に取り合うほど間抜けだったのだ。
「そんな事だろうとは思っていたけど、くだらないわね」
あーアホらし、と言い残し、クリスは踵を返してリビングを出て行った。
しかし彼女は一体何をしにここへ来たんだろうか。
「パルス君。片付けは信彦さんが帰って来てから、シグナル君一人にまかせましょうか」
「ああ、そうだな。行くか、ハーモニー」
パルスは手に持っていたほうきを傍らに置き、またもや自分の世界に入って熱弁しているしているちびを放って、クリスに続きリビングを後にする。
残されたちびは誰もいなくなったことに気付きもしない。
「これからは朝ごはんもお昼ごはんも夕ごはんも、チョコなのでーすっ」
「へー、そんなことがあったんだー」
夕方、信彦が学校から戻るとおしゃべりなハーモニーは、信彦に今日一日にあったことをおもしろおかしく報告する。
その傍ではシグナルが、カルマに監視されながらほうき片手にせかせかと片付けさせられていた。
「なんでいっつも僕のせいなんだーっ!」
...End... (01/04/13)