小説1

□開―華啓く―花
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「元譲」

 孟徳は言った。

「一生を賭して、儂と共に在れ」

 【開―華啓く―花】
 曹操は、才能のある者を好んでいる。それは戦乱の世にあって、有効でない類のものも含まれる。
 書に秀でた者、楽を愛する者、詩に全てを捧げる者――そういった芸術を、曹操は目を細めて愛しんだ。
「武芸は百年を制す。だが、芸術は千年の世を創るのだ」
 夏侯惇は聞き慣れたその言葉と声とに、いつものように苦笑する。
「ならば俺の名は、百年の後には忘れ去られていような」
「たわけた事を」
 このやり取りは、二人には睦言のようなものだ。曹操の寝室に呼ばれた夏侯惇は、彼の寝台に横たわりながら楽しむような笑みを浮かべている。
「お主は、儂の片腕――いや、半身だ」
「それこそ“たわけた事”だ、孟徳よ」
 ぎしり。
 突然、流れるような動きで夏侯惇を組み敷いた曹操に、男二人分の体重を受けた寝台が悲鳴を上げる。
「お前は、例え俺が倒れても、天下を取りに行ける。だが俺は、お前が倒れても代わりにはなれない」
 自分よりも幾分か小柄な体を抱き返し、夏侯惇は尚も呟いた。
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