【MaiN WorlD】

□Please your smile
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「隊長はどうしてオーブに亡命したんですか?望めばプラントでも優遇されたと思うんですけど」

シンは前々から気になっていた事を口にした。隊長と呼ばれたアスランは困ったように笑う。

「アスラン、だ。どうしたんだ?急に・・・」

「べ、別に言いたくないのなら言わなくて結構ですけど」

明らかに困っているアスランの笑顔を見て、シンは慌てて付け加えた。

「別に言いたくないわけでは無いんだが・・」

シンは顔を少し顰めてアスランを見遣る。

「じゃあ教えてくださいよ。なんか自分のことばかり知られてるのは気分悪いですから」

アスランは、そうだなと頷くと言葉を紡ぐ。

「説得できなかったんだ・・大切な人を」

シンは瞠目したが、特に言葉を発することはなかった。ルナマリア達がガッカリするだろうなと考えながらアスランの次の言葉を待つ。

「そいつはもともとオーブの人間で、家族もオーブで暮らしているからほっとけなかったんだろうな。プラントには行けないって。だからオーブに亡命したんだよ、彼女といるために」

アスランの表情、特に目は見たことが無いくらい穏やかだった。その女性に対する愛しさが伝わってくる。

「どんな女性なんですか?アスランにそんな表情までさせるなんて」

その緩みきった表情を見て、半ば呆れるようにシンは聞いた。

「興味を持たれると困るから言いたくないな」

そう言ってアスランは目を閉じる。その顔はやはりに緩んでいて、誰を想像しているのか安易に予想できる。

「一人でにやけないでくださいよ、気持ち悪い。他人の女にまで手は出しませんよ」

毒気を抜かれたと言うか何と言うか・・アスランがそんなところまで危惧するということは、相当の美人なのだろう。シンはふと、オーブで見かけた女の子の事を思い出した。あの子も相当美人だったな、と。

「そうか?・・まぁ、手を出したら誰であろうと容赦はしないが」

笑顔で言ったアスランだが、実行したらマジでヤリそうな黒いオーラを感じさせた。

(うわ…やっぱヤバイなこの人)

弱冠退きつつも、恐怖より好奇心の方が勝った。

「だから出さないって…どんな人なんですか?」

「そうだな…純粋な奴だよ、良くも悪くも。人を信用しやすくて、騙されやすい。優秀なのに気取らなくて…笑顔が絶えなくて」

アスランの目が何処かに行っている。

(…その笑顔を妄想してるな)

もう慣れはしたが、やはり奇妙だとシンは思った。

「昔から要領悪くて、課題のマイクロユニットはほとんど俺がやってた」

シンは少し疑問に思う。

(昔から…?課題?)

「隊…アスランは、オーブに住んでいた事があるんですか?」

疑問をぶつけられた張本人は、ぶつけた相手をキョトンと見つめた。

「なっ何ですか…?」

「いや、別に。…議長と会食をしているときも思ったが、シンは着眼点が良いな」

シンはそれが褒め言葉だとわかると、少し赤くなった。それをごまかすように促す。

「そっそれより!どうなんですか?」

「オーブに住んでいた事は無かったが、月面都市コペルニクスに住んでいたんだ。キラ…彼女も。13の時に俺はプラントに引っ越して…彼女はオーブのコロニーに移った」

苦々しげに言ったアスランを見て、シンは首を傾げる。そしてはっとした。

「オーブのコロニーって…ヘリオポリス?」

ザフトの襲撃によって崩壊したと言われるヘリオポリス。その襲撃に、アスランも加わっていた事はルナマリアから聞いたことがあった。

「そうだ…あそこで地球軍が新型モビルスーツを作っていなければ、彼女を戦争に巻き込むことは無かったのに」

自責の念を感じさせるアスランの声色。拳を握り締め、肩は僅かに震えている。シンはその姿を痛々しく感じた。それと同時に、地球軍に対しての怒りが込み上げる。

「…やっぱり地球軍が悪いんだ。前の大戦も、今の戦争も」

自分の家族を奪ったのだって、もとを正せば地球軍だ。だからと言って、アスハを許すことは出来ないが。シンはアスランに勝るほどに、顔を歪ませた。

「…地球軍にも話が通じる者は、少なからずいるんだがな」

怒りだしたシンを見て、アスランは宥めるように言った。

「元々地球軍艦だったアークエンジェルのクルーは話がわかる人が多かった、だからキラも…」

途中まで言ってアスランは口ごもった。この先を言って良いものかどうか迷ったからだ。

「?」

「…話がズレたな。彼女の名前はキラ・ヤマト。長い亜麻色の髪に紫の瞳を持つ第一世代のコーディネイターだよ」

あからさまに話を反らしたのも気になるが、彼女の容姿についての方が気になり敢えて口だしはしなかった。

(亜麻色って…確か茶色だよな?紫の瞳…)

その容姿がシンの記憶に強く印象付けている、あの悲しげな少女を思い出させる。

「俺…会った事あるかも」

思いも寄らない発言に、アスランは瞠目してシンを見る。

「会った事がある?」

それは見掛けたとかでは無く、明らかに話したような口ぶりで。アスランは訝る。

「違うかもしれないけど、オーブの慰霊碑の前で。とっても悲しそうに…ってか泣いてたのかも、今思えば」

夕日の逆光でよく見えなかったが、涙の痕があったかもと思い返す。

「慰霊碑か…キラだろうな、たぶん。彼女はかなり心を痛めていた、多くの人々の犠牲を…あのオーブ戦でハルマ小父さん、キラの父親も亡くなったし」

シンはしゅんとした顔をして俯く。あの少女の悲しみの訳が、自分と同じ悲しみだとわかったからだ。

「そう…だったんですか」

「同じ…って言ったらシンは怒るかもしれないが、同じ悲しみを持つお前とキラの思い方は全然違うな、当然といえば当然だが」

「どういう意味ですか!」

「キラは悲しみはしたが、カガリを…アスハを恨まなかったよ。最後までウズミさんを信じ続けた」

「…どうせ俺はおとなげないですよ、ほっといてください」

拗ねるシンを見てアスランは肩を竦めた。

「俺はお前を否定する気は無いよ。ただわかってほしい…あそこでオーブが降伏していたら、お前は此処にはいなかった…最悪死んでいたかもしれない事を」

ぐっと握り締めた拳から、うっすら血が滲んだがシンは構わない。

「わかってますよ…そんな事!でもっ」

「理解は出来ても納得は出来ない…か。それでも理解はしてるならそれで良いさ。日も暮れてきたし、そろそろ中に入ろう」

人気の無い甲板にいた二人。シンは最後にもう一つ質問した。

「何でそんなに大切な彼女をおいてまで、ザフトに戻って来たんですか?」

「彼女を二度と戦争に関わらせない為の剣を求めて」

悔いのない顔でアスランは答えた。


.第一話 END
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