WT短編集

□当真夢 
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「な〜〜〜〜ん」

 その辺の草むらでむしってきた猫じゃらしを揺らして気を引いてみる。

 あっち、こっち、と揺れるのにつられて目線と顔が動いていた。おそるおそる近づいていく。今日はもう少し近づきたかった。

 もう少し行けるか、と思いにじりにじり寄っていくと、足元からパキッと音がした。木の枝があった。

 音に驚いた彼女は、スッと猫じゃらしから顔を逸らすと歩いてきた方へ帰ってしまった。

「あ〜〜〜……」

 残念だった。今日はもう少し近づきたかったし、欲を言えば触りたかった。

「くそう……」

 しかし収穫はあったのだ。今日はこれを得ることが出来た。大きな進歩だった。

「……よし、ブレてない!」

 かわいい猫ちゃんが映っている。野良にしては顔がかわいらしいし、前から思っていたが動作もあざとい。誰かの飼い猫なのか、地域猫なのか。耳は切られていないので、去勢は済んでいないようだ。

「よくは、ないよね」

 地域猫ならば、というよりも外で生活しているならば去勢したほうがいいだろう。

 いや、そんなことが言いたいわけじゃない。

 ブンブンと首を振ると、先ほどの写真をSNSのDMに送る。

 スクロールをすると猫の写真で埋まっているトークルームだ。

「……ふ、ブレブレだ……」

 私の送った猫は、ほとんど彼女だった。とても愛らしい顔でもこちらを見つめている。

 今気づいたことだが、どんどんさかのぼっていくと猫の顔はどんどん警戒心を高めていた。

 彼女はほとんど毎日顔を見せる私に気を許し始めていた。嬉しい。

「あ、返信来た」

 通知音はならず、スマホが振動する。トークルームに移動すると、ほめられていた。

「……えへ」

 嬉しい。いくらお昼休憩の時間といえど、ご飯を食べる時間だし、友達といるだろうから、スマホはあまり触らないだろうに。

 自分を優先してくれているように感じられて、舞い上がった。すぐにもやもやとしてしまったけど。

「そんなわけないのにねえ……」

 芝生から移動して、コンクリートの上を軽く手でささっと拭って座った。脇に避けていた袋を開き、弁当箱を開ける。

 うーん、塩の味が濃すぎる……今日は失敗だな……。

 あまりおいしくない卵焼きを咀嚼すると、影が目の前に出てきた。

「やっぱりここにいたのかよ」

 彼女を猫に抱いて、あの人は現れた。

「一人で食べやがって、さみしくねーの?」

 言えよ、一緒に食ってやんのにさ。

 腕から下げていた袋を地面に降ろすと、猫を抱えたまま私の隣に座った。

「どーせ触れてねーだろ?触らせてやるよ。なー?」

 なーん。と一鳴きすると目を閉じて彼の手に頭を預けていた。おそるおそる、そっと頭を撫でる。柔らかいけど、野良だからか少しごわごわしていた。

「触れた……」

 あっさり触れてしまい、なんだか拍子抜けだった……いや、そうじゃなくて。

「あの、なんでここに……?」

「この猫はこの時間、だいたいここにいるからな。すぐわかんよ」

「っと、それもなんですけど……」

 なんで、来てくれたんだろう……。誰とご飯食べてたのかな、友達だよね……。その人は良いのかな……。

「お前、一人で食ってんだろーと思ってよ。カワイソウだからな」

 感謝しろよー?と笑うと猫を地面に降ろした。彼女はもう一度鳴き、まだ開いていない袋の口に手をかけた。爪を立ててなんとか開けようとしている。

「おいおい、おめーのじゃねえぞ?」

 猫の首元を掴みそっと移動させると、弁当袋を抱え込んだ。

「おっ美味そうなもん食ってんじゃねーか。交換しようぜ」

「えっ!?いやこれは、ちょっと失敗しちゃってて、」

 わたわたと慌てると、その間に素手で掴まれてしまった。あああ、と慌てていると口に運ばれてしまった。


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