けいおんと天才ギタリスト

□第4話 楽器選びと天才ギタリストの正体と軽音部スタート
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その週の休み、集合場所に指定された場所に向かうと、すでに律たちが待っていた。

「後は唯だけか。」

「みたい。」

「どこにいるんだよ?」

それからしばらく待つと、俺が来たのと同じ方向から唯が姿を現した。

「おーい唯、こっちこっち!」

律が手を振って唯に場所を知らせると、唯も手を振り返しながら横断歩道を渡るが、渡っている人の肩にぶつかったり犬をかわいがったりと、中々たどり着けない。

(あと数mなのに、なぜ?)

世の中には理解できないことが多々あるのだと、俺は改めて知ることになった。
結局、唯はお小遣いを前借してもらう形で五万円を調達したようだ。

「これからは計画的に使わないと………」

使おうと息込んだ唯はふらふらと洋服のお店の方へと、引き寄せられるように歩いていく。

「いけないんだけど、今なら買える。」

「こらこら!」

律の制止を振り切ってお店の中に入って行った唯を追うべく、俺たちもお店の中に入るのだが、洋服を一緒になって選んだり、置物などを見たり、食料品売り場で試食などに講じたり、ゲームセンターで遊んだり等々寄り道をし続けた。
そして、レストランに入ることになった。
唯たち四人の後ろのテーブルに俺は案内された。
俺は注文したモンブランを時間をかけて平らげた。

「あー、楽しかった。」

「へへー、買っちった。」

後ろから聞こえる満足げな声。

(まさかとは思うが、何をしに集まったのかを忘れてはいないよな?)

何となく不安に思えてきた。

「次はどこに……あれ、何か忘れてない?」

「楽器だ!」

本当に忘れてたようだ。

そんな大きな寄り道をして、俺たちはようやく本来の目的地である楽器店へと向かう。

楽器店の名前は『10CIA』だ。

(なるほど、ここか。)

そしてギターなどが置かれているブースにたどり着くと、唯はギターを見て行く。

「唯、決まった?」

「うーん。何か選ぶ基準とかあるのかな?」

唯の疑問に澪が解説をするが、唯はそれを聞かずにギターの方を見ている。

「あ、このギター可愛い。」

「あ、Gibsonのレスポールか。」

唯が興味を示したのは、俺が愛用するギターのメーカGibsonの物だ。

「そのギターは、俺もよく使っているギターだが、かなりの重量があるけど大丈夫か?」

このレスポールは音が伸びやすく、多少のごまかしが効く初心者向けの楽器ではあるのだが、重量が約4,5キロするため彼女には少々厳しい楽器だ。

「それに、そのギター25万もするぞ。」

レスポールは値が張るものが多い。
ビンテージものになれば百を超える物だってある。

「うーん。さすがにこれには手が出ないや。」

律が付け加えるように言うと困った表情を浮かべる。

「このギターが欲しいの?」

ムギの問いかけに、唯は深く頷いた。

その後、律が他のギターを見るように促すが、唯はそのギターの前から動くことはなかった。
ギターを買う上で重要なのは、ネックや音の響きなども当然だが、一番必要なのはフィーリング。
これだ!と直感的に思うギターに出会った時こそ、その人に最適なギターの一つでもあるのだ。
その後澪と律が楽器を購入する際の話をしてくれたが、正直律の値切り話にはここの店員の人に同情してしまった。

「よし! みんなでバイトしよ! 唯の楽器を買うために!」

「え?そ、そんな悪いよ!」

律の言葉に最初は遠慮していた唯だが、”部活の一環”という律の言葉に圧され、ムギが賛成する形でアルバイトは決定したのであった。
すると楽器店の店員が俺の顔を見た。

「あなたもしかして天才ギタリストと呼ばれたROCKSTORYのToruさんですか!?」

『え!?』

「ゲ!?」

「亨、どういうことだよ?天才ギタリストってまさか!?」

まさかの楽器の店員が俺の顔を知っていて、俺が天才ギタリストだと知っていたとは。
おまけに唯達の前に俺の事をバラされた。
仕方ない。
唯の楽器を買った後に話すか。

「ええ。そうですけど。」

「やっぱり!僕、あなたのファンなんです!お客様の楽器を買った後にサインもらっても良いですか!?」

「良いですよ!」

「では、ギターを選んだらよろしくお願いします!」

店員は離れると唯達は俺を見て震えていた。

「ハァーしゃあないな。まあいつかバレると思ってたけど、こんな早くとはな。」

「亨君、ROCK STORYって何?」

「私も初めて聞いたわ。」

「お前ら知らないのか!?ROCKSTORYは、ワンオクのコピーバンドだ!しかもバンドのなかで天才ギタリストと呼ばれたメンバーがいた。まさか天才ギタリストの正体が亨だったとは!」

「今でも私ビックリしてるよ!」

「黙ってて悪かったな。俺があれを公表したら学校中大騒ぎになると思って隠してきたけど、こんなに早くバレるとは思わなかった。だから他のみんなには俺が天才ギタリストだという事は内緒にしてくれ!」

「もちろん!」

「約束は守るぜ!」

「うん!わかった!」

「了解よ!」

俺と軽音部はさらに絆を深めて楽器選びを再開した。

「唯はGibsonのギターそんなに欲しいのか?」

「うん!」

そして俺は決断した。

「分かった!俺の力で買うわ!」

「本当!?」

「任せとき!」

そして俺は店員にあの件を言った。

「すいません!彼女が欲しがってるGibsonギター、25万から15万値引き出来ますか?もちろん!10万円は俺が払いますし、楽器店に俺のサイン欲しいんですよね?だったらお互い様でしょ?」

「もちろんです!Toruさんのお願いなら何でもやりますので!」

そして俺は10万円払って楽器店にサインした。

「ありがとうございます!こちらは大切に飾らせていただきます!」

俺は唯にギターケースを渡した。

「はい。唯大切にしろよ。軽音部のスタート記念なんだからな。」

「亨君ありがとう!」

「スゲーな亨!」

「これがスターの力か!」

「ありがとうございました!」

こうして、唯のギター選びは無事に幕を閉じたのであった。
その翌日、ギターを持ってきた唯によるお披露目会が行われていた。
弾けるか否かはともかくとして、持つだけでかなり様になっている。

「何か弾いてみて!」

そうリクエストをした律に応えるべく、唯はたどたどしくではあるが弦を弾いた。
そして流れるのは間の抜けた音だった。
タイトルはチャルメラ?
唯曰く、ギターがピカピカしているから触るのが怖かったのだとか。

「鏡の前でポーズを取ったり、添い寝をしたり写真を撮ったりはしたんだけど。」

「いいから弾いてみな。」

だが、ギターの扱い方ではない。
ちなみにレスポールは非常に耐久力が弱い。
落としただけで割れることがあるため、注意が必要だ。
その点に関しては、添い寝をしても異常がないのは奇跡にも近かった。

「そういや、ギターのフィルムも剥してないもんな。」

確かに剥されていない。
そこで何を思ったのか、律が剥してしまった。

「唯ちゃん、お菓子お菓子。」

必死に謝る律に、呆然と固まっている唯にムギさんがお菓子の乗っているお皿を差し出す。

(そんなので機嫌が治るわけが)

ないと思いながら唯の方を見ると

(治ってるし!?)

おいしそうにお菓子を食べる唯の姿があった。

「そうだよね、ギターは弾くものだもんね。ただ大事にしているだけじゃかわいそうだもんね。」

そう言って律の手を唯が取ると、律の表情が晴れた。
まあ、言っているのは当然のことなんだけど。
それで気を良くしたりつの頭を、澪が軽く小突いた。

「ライブみたいな音を出すにはどうすればいいのかな?」

「アンプにつないだら出るよ。」

唯の疑問に答えるべく、ギターにリードを差し込むともう片方の端子をアンプに差し込む。
そしてボリュームつまみを上げると機械特有のノイズが走る。

「よし!」

律が唯に合図を出すと、唯はピックを一気に振り下ろした。

奏でるのはただの開放弦音。

それでも、甘く太い音が準備室を包み込む。

「かっこいい!」

「やっとスタートだな亨。」

「ああ。」

「私達と天才ギタリストの軽音部。」

その音に酔いしれる唯を見ながら、澪と俺と律が感慨深げにつぶやく。
ここまでがかなり長く感じた。

「夢は武道館ライブ!そしてROCKSTORYのコラボだ!」

「えぇー!?」

片手を上げながらでかい夢を宣言する律に、俺たちは一斉に驚きの混じる声を上げる。

「卒業までに!」

さらにハードルを上げた。
夢や目標はデカければでかい方がいい。
小さい目標ではすぐに行き詰る。
とは言え、大きすぎるのも考え物だ。
そして、再び唯は間の抜けた音を奏でる。

「ごめん、まだこれしか弾けない。」

肩を落とす律たちに、唯は申し訳なさそうに謝る

「アンプで音を鳴らすのはもう少ししてからね。」

「まあ、焦らずにやろう。」

そう言いながら唯はアンプの元に歩み寄ると、つながっているリード線に手を掛けた。

「やめろ!」

「ふぇ?」

唯のやろうとしていることが分かった俺が忠告するも、それは少し遅かった。
すでにプラグを抜いてしまったためにアンプから、劈くような爆音が響き渡った。
その音の衝撃に思わず僕は仰け反ってしまう。

「アンプのボリュームを下げる前にコードを抜くと、そうなっちゃうんだよ。」

「早く言って。」

武道館ライブとROCKSTORYのコラボまで道のりはまだかなり長いなと思わせるのには十分であった。だが俺はこれから先の軽音部が楽しみになってきてこっそり笑った。
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