けいおんと天才ギタリスト

□第2話天才ギタリストの入部
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翌日、俺は家を出てカバンの背中にはMIYAVIと書いてあるギターケースにMIYAVI TELECASTERとLes Paul Standard 95年製とLes Paul Custom 89年製とMcCarty Artist PackageとMcCarty Limited Editionを入れて登校した。

「さすがに5個のギターを入れると重いな。まあ良い筋トレになるからいいか。」

俺は授業を受けてあっという間に放課後になった。

「さて、軽音部に行くか。」

俺は軽音部に向かうが、軽音部の場所は分からないため、職員室で聞くことにした。

「失礼します。」

職員室に入った俺は担任の教師を探したが見当たらなかった。
おそらく忙しいだろうな。

「あなた、誰先生に用事かしら?」

どうしたものかと考えたところに、声をかけてくる人がいた。
見れば人当たりのいい笑みを浮かべているメガネをかけた女性教師が立っていた。
普通の人が見れば、彼女はお淑やかそうに見えるだろう。
そう普通の人には。

「いや、軽音部の部室がどこにあるのかを聞きたいんですけど。」

「ああ、軽音部ね。」

俺の問いかけに、目の前の女性教師はなるほどねと言わんばかりの表情で頷くと職員室の出入り口のドアまで歩み寄る。

「あそこの階段を上った先……校舎の最上階にある音楽室よ。頑張ってね。」

「ありがとうございます。」

すると女性教師は俺のギターケースを見つめた。

「ねえ、もしかして?」

まさかバレるのか!?俺の事!?

「あなたギターやってるの?」

「まあ一応。ていうかよく分かりましたね。これがギターケースだって。」

俺は冷や汗をかきながら答えた。

「私音楽教師だからね。とりあえず頑張ってね軽音部!」

「あ、はい。」

教師からエールをもらい、俺は一礼すると職員室を後にした。
つうかあの先生、俺の事をどっかでバレそうだ。
階段の手すりにあるウサギや亀のレリーフに、首を傾げながら一段一段上って行く。
上るたびに樹がきしむ音がするのは、風流と見るべきなのか、うるさいと取るべきなのか。
それはともかくとして、ようやく最上階だ。
なんとかたどり着いた最上階で、俺は額の汗をぬぐう仕草をしながら一息つく。

「確か軽音部は音楽室で活動していると言ってたな」

俺は念のためにと右手を音楽室のドアに触れて目を閉じる。

(いない。ということは…)

人の気配がないのを確認した俺は、左隣の『音楽準備室』のドアに同じように手を触れる。

(いた。人数は3人か。しかも全員女子だし。)

早速懸念していたことが起こった。
女子だけの部活に男が一人というのは、非常に心苦しい。
いや、居心地が悪いということではなく、接し方が分からないだけだ。

(とりあえずは話してみないとな。)

俺は一度頷いて深呼吸をすると、ドアノブをひねった。

「あの、すみません」

「はい、何か用?」

ドアを開け、恐る恐る中に入ると、栗色の髪をカチューシャのようなもので留める女子高生が、そっけない様子で近寄りながら声をかけてきた。

軽音部はここで―――」

「もしかして、入部希望!?」

最後まで言い切る前に、栗色の髪の女子高生によって遮られた。
先ほどのそっけない態度は何だったのだろう?
今は目を輝かせている。
というより、すごい変わりようだな。

「え、ええ。まあ。」

「〜〜〜っ! おーい、皆! 入部希望者が来たぞ!」

俺の返事に栗色の髪の女子高生は嬉しそうな声で悶えると、後ろの方にいる女子高生三人に声をかける。

「ようこそ軽音部へ!」

「しかも男子だ!」

「歓迎いたします!」

そして立ち上がると、嬉しそうな表情で黒色の髪を後ろに結んでいる女子高生と、薄い金髪の髪をストレートに伸ばす人当たりのいい雰囲気を醸し出す女子高生の二人が歓迎の言葉を掛けてくれた。

「よぉしムギ、お茶の準備だ!」

「はい!」

そして栗色の女子高生の指示に、薄い金髪の髪の女子高生は笑顔で返事をすると素早く支度をした。

(な、何なんだ?この熱烈な歓迎は?)

あまりの熱烈な歓迎に、俺は少しばかり引いていた。

「さあさあ座って座って!」

「は、はい」

栗色の髪の女子高生に言われるがまま、俺は奥にあった椅子に腰かける。

(ま、まさか俺の正体を知っているのか!?)

色々な可能性が頭の中をよぎる。

(まさか!?入部するための面接試験とか!?)

ありえないとは思いつつも、部活動を生れてはじめてする俺には、想像がつかなかった。

「はいどうぞ」

「あ、すみません」

そして用意されたのは良い香りの紅茶と、俺の大好物のモンブランだった。
なぜ、こうも俺の好みにぴったりなチョイスなのだろうか?

(た、食べづらい)

三人に見つめられながらと言うのは、非常に食べづらい。

「どうぞ、召し上がって」

「い、いただきます」

薄い金髪の女子高生に促らされるまま、紅茶の入ったティーカップに手を伸ばす。
そして、一口すすると柔らかい味が口の中を駆け巡る。

「お、おいしい」

思わずそう呟いてしまうほどのおいしさだ。人に入れて貰ってここまで美味しい紅茶は初めてだ。
俺はモンブランにも手を伸ばす。
フォークでモンブランの先を切ると、それを口元に運ぶ。

「はぁ〜」

思わずとろけそうになる。やはり、モンブランは神の産物だ!

「お好きなんですか?モンブラン?」

「え、ええ」

(いけないいけない。しっかりしないと)

とろけ切っていた自分に喝を入れつつ、俺は問いかけに答える。

「あなたは、どんなバンドが好き?」

「え?」

「好きなギタリストとかは?」

「え!?」

栗色の髪の女子高生の早速の問いかけに、俺は固まってしまった。
まさか、そこから入るとは思ってもいなかった。
そして正直に言おう。
俺はバンドやギタリストの事は知っているが、こんな質問されるとは思わなかった。
いや、これでは語弊がある。
正しくは、名前は知っているが好きか否かの判別は出来ないのだ。カバー曲をするために、曲を聴いたりはしているためバンド名は知っているが、それがそのバンドが好きだということに=にはならない。
ギタリストはなおさらだ。

(ここで適当に言っても深く潜られたら絶対についていけない)

そんな時、明暗が思いついた。

(自分の好きなバンドを言えばいいんだ)

そうすればどんなに詳しいことを聞かれても話についていける。
何せ自分が所属するコピーバンドなのだから。
とは言え、俺が天才ギタリストで、俺がMIYAVIの弟子で、ワンオクの友達だと言うのは気が引ける。
自分で自分を褒めるほど、俺は変人ではない。
なので、俺は好きなバンドと好きなギタリストの名前を言うことにした。

「好きなギタリストはMIYAVIで、好きなバンドはワンオクかな。」

「え!?」

「俺はギター始めたきっかけはMIYAVIの生ライブを見たのがきっかけで俺はギター始めたんだけど。」

黒髪の女子高生と栗色の髪の女子高生が食いついた。
てことは俺の事知ってるのか?

「まあこれから入るから名前覚えとかないとな。君、名前は?」

「あ、秋山澪。」

「私は琴吹 紬と申します。ムギと呼んでください」

「あ、私は田井中 律。よろしくね」

「私は平沢唯!よろしくね!」

薄い金髪の女子高生……ムギさんに続いて栗色の髪の女子高生……田井中さんが自己紹介をする。

「俺は桐谷亨です。よろしく。」

俺も彼女たちに倣い、自己紹介をする。

「あ、敬語じゃなくても良いですよ。同じ学年ですし。」

「そ、そうですか。では……これからはこんな感じで話さしてもらうよ。」

ムギさんの提案に俺は一呼吸おいて話し方を元に戻した。

「あ、これ入部届。」

「はい、確かに」

「楽器は何を?」

入届を田井中に渡しがてら聞かれたので、俺は少しだけ考えたのちに答える。

「ギターをそこそこかな。」

一番いいのはギターを弾かないということでもあるのだが、それ以外だと演奏すらできない可能性があるので、ここはギターを取ることにした。
すると田井中は俺のギターケースを見つめた。

「じゃあ演奏の演奏の準備をして!」

「え!?マジっすか?」

「マジ!」

「うーん分かったよ。ちょっと待ってて。」

そして俺はギターケースを出してMIYAVI TELECASTERを出した。

「では、聞かせて貰おうか!」

「お前は何様だ!」

俺はアンプを入れて深呼吸した。

「じゃあ俺のソロ曲でいいか?」

「なんだその曲?」

「まあ見てろ。」

俺はDancing With My Fingersをハナから弾き始めてギターソロまでやり続ける。

すると玄が切れた。

「あ、切れた。」

白々しいと思いながら、俺は落胆した風に演じながら呟く。

(あれ、反応がない)

俺はいつまで経っても反応がないため、リスナーである3人、いや勝手に増えた4人に声をかけることにした。

「おーい、大丈夫か?」

「す…」

「す?」

彼女たちの前で手を振りながら呼びかけると、突然田井中が反応を示した。

「すっげぇ!うまい!上手すぎる!」

「うん。私も聞きほれてしまいました」

「すごい! わたしとっても震えちゃいました!」

反応を示したかと思うと、ものすごいハイテンションで褒めちぎられる。
一応プロだから、弾けて当たり前だ。
でも、この胸の奥からこみ上げる喜びは、とても心地よい物だった。

「なあ、澪もそう思うだろ!」

「ああ……本当にすごい」

(まずいな)

秋山の目が、俺には過去を思い返しているように見えた。
今、秋山の中では様々なバンドの演奏が再生されているだろう。
どうか俺の正体がばれないように、祈ることしか俺にはできない。
それよりも問題なのは

「是非私にギターを教えてください!師匠!」

「師匠は止めてくれ!」

興奮のあまりに手を握りしめて教えてくれとせがむ、軽音部に入部してくれることになった女子高生への対応だったりする。
その後、思考の海から戻ったのか秋山によって女子高生は落ち着きを取り戻し、俺が彼女にギターを教えるという事で落ち着いた。
その態度から、俺はばれなかったと知って静かに息を吐き出すのであった。こうして、軽音部は廃部の危機を脱したが、これはまだまだ序の口であることを俺たちは知らないでいた。
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