SHORT

□Bathroom
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今日の入浴剤は..
名前は忘れた
紫色で乳白色の泡立つタイプ
バスタブで足を伸ばして座る七海の
その足の間に座り
背中を七海の胸に預ける
七海は後ろから私を包み込むように抱きしめる
「二人でこんなにゆっくりできるのは久しぶりね。」
「そうですね。
 とても癒される。」
七海の低音が私の耳のすぐそばで響く
彼の手が濡れた肩や腕を滑る
「あなたの肌の感触を忘れてしまいそうなくらいでした。」
「大げさじゃない?三か月かそこらでしょう。」
「名無しさんにとってはそうかもしれませんが...。
 私にとっては気の狂いそうなほど長かった。」
彼の任務と私の仕事のせいで
私たちがこうして会えるのは決して頻繁ではなかった
その中でも今回は本当に長かったのだ
「長かったのはあたしにとっても同じ。」
自分のすぐ上にある七海の顔を見上げる
その視線に彼も私を見下ろして
優しいキスをくれる
「電話で七海の声を聞きながら
 七海のシャツを抱きしめて
 七海の匂いを嗅ぐの。
 目を閉じると
 あなたがそばにいて抱きしめ合ってるみたいに感じる。」
七海が再び私を両腕できつく抱きしめる
「あまり可愛いことを言わないでください。
 今は生身なんですから。」
「ふふふ」
私を抱きしめる腕を指でなぞる
「七海は?
 会えない間どうしてた?」
「私にはあなたの匂いのついた便利グッズなんてありませんよ。
 ただあなたの声を聞いて目を閉じて想いを馳せるだけです。」
七海らしい真面目な返事に
やっぱり胸がキュッと掴まれたように苦しくなる
「いる?
 今度出張に行くときに持って行けるような
 あたしの匂いの付いた何か。」
「そうですね...」
しばらく考えてから七海はまた口を開く
「それよりも忘れられない位に
 濃厚に鮮明に記憶に留めたい。」
そう言って
首筋や肩にいくつもキスを落とす
「出ましょう。」
七海の声が低く掠れた
「ん..」
久しぶりの余裕なく切羽詰まったような
切ない声に抗える訳もなく
入浴剤の効果だけでは無い程に熱くなった体でバスルームを後にした


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