春夏秋冬シリーズ

□5月:星
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「お、鳳。頑張ってるか?」
「は、はい!宍戸先輩!」

仮入部中に赤ちゃんを助けた宍戸先輩は、それを目撃したボクのことを何かと気にかけてくれていた。

「ったく、おどおどしてんじゃねーよ。激ダサだぜ」
「すみませんでしたぁ!」
ぺこりと頭を下げると髪の毛を弄りながら、満足げに去っていった。

宍戸先輩に話しかけられると、嬉しい反面何だか申し訳ない気持ちになる。あの時何もできなかったボクは"激ダサ"なのに、その後もこんなふうに覚えててくれてるなんて。

ぼーっと宍戸先輩の後ろ姿を見ていると、跡部部長に体調が悪いのか、と心配されてしまった。

その日の部活が終わった更衣室で、今まで話したことがなかった同級生に話し掛けられた。
「なぁ、鳳ってなんで宍戸先輩に気に入られてんだ?」
唐突な質問に驚くボク。
「えっ!そんなことないと思うけど」
「ここだけの話、宍戸先輩ってちょっと怖いしな」
宍戸先輩に対して怖いと感じたことはなかったな。確かに口は悪いけど…
「何したら気に入られたんだ?教えろよ」
「そんな!何もしてないよ」
どうしよう、本気で尋ねているのかな。何だか怖くなってきた。
「女みてぇな顔してっからじゃねーのか」
「あはは、色仕掛けか?」
「確かに女っぽいぜ」
そんな言い方って…酷いよ。大体あの日宍戸先輩と会ったのは偶然なのに。

「おいお前ら、それくらいにしておけ」
「日吉ぃ!」
「鳳がくだらない質問に答えるからだ。ほら、帰るぞ」
「うん!」

駅までの道で話しながら歩く。
「宍戸先輩はね、あの日赤ちゃ」
「その話、何回目?」
「ごめん、日吉ぃ。」
「鳳の悪いところだぜ、たった一回の印象にこだわりすぎ。もっと色々な面から見ろ」
「そうかな、悪い人ではないと思うけど」

はぁ、とため息をつく日吉。
「そんなことは俺も分かってる。そうじゃなくて、弱点とかも見ればってこと」
「…?!それってアドバイス?」
「はぁ?何に対するアドバイスだと思った?俺は事実を言ったまで」
「日吉ぃ…」

宍戸先輩の弱点、か。そんなのあるのかな?あんなに素敵なのに。
でもそれが分かるくらい、宍戸先輩に近づきたい。

「日吉ぃ!」
「なんだ?」
「ボク、いつか宍戸先輩に近づけるかな」
まだ暗くなるのは早くて、見上げると星がちらちら輝いていた。
「…。そんなんじゃ甘い。下剋上だ」
「日吉ぃ、宍戸先輩のことは超えられないよ。でもせめて近づきたい。変かな?」
「フン、鳳らしいっちゃらしいな」
「えへへ」
日吉らしい応援の仕方に、思わず笑みが溢れる。
「分かったならその軟弱な態度をやめろ。そんなだから女みてぇって言われるんだろ」
「そんなぁ」

いつか自信を持って宍戸先輩と話したい、そしてテニスがしたい。そのために、ボクはまだまだ頑張るぞ。そう頭上の星に誓ったのでした。
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