鳳長太郎(腐)

□明日になるまで
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がぶり。いつものように、就寝前に熱いお茶を飲む。
後ろから長太郎が恥ずかしそうに、「あの、宍戸さん今日‥」と呟くのが聞こえた。
俺は冷蔵庫のカレンダーを見やって、
「あぁ、明日の1限プレゼンだったな」
と答えた。
長太郎は心配症で、人一倍緊張しやすい。
だから大事な日の前日はなかなか寝付けないみたいだった。

電気を消す。いつものように、敷き詰められた2枚の布団で足の踏み場もない。
俺たちはまず、ごそごそとそれぞれの布団に寝転ぶ。
間もなく長太郎が俺の布団に入ってくる。
俺はごろりと左に寝返りをうって、長太郎に背を向ける姿勢になる。
長太郎は身体を丸めて両手を胸の前で組んで、祈るみたいな体制になる。そして少し、布団に潜る。
ただそれだけのこと。
すぐに後ろから聞こえる長太郎の寝息。
すぅー、すぅー、と明日のことなんて忘れて、気持ち良さそうに眠っている。

「なんでだろ。一人だと心配事がぐるぐる頭を巡るのに、宍戸さんの布団に入らせてもらうといつの間にか明日になっています」
長太郎は前にそう言っていた。
「ふーん、そうかよ」
なんて答えたらいいのか分からず、俺は素っ気なく返事をしていた。

長太郎は俺だから安心するのだろうか。
それとも一人じゃないって感じられれば誰でもいいのか。
気がつくと俺が眠れなくなっていた。

何分経っただろう。
いつしか長太郎は丸まったまま布団の更に奥に潜っていて、掛け布団から脚が出てしまっていた。
長太郎側の布団を引き寄せようと、起き上がった。
ゴソッ
長太郎が動く音がした。
起こしてしまったか確認しようと、掛け布団をめくった。
幸い長太郎は寝息を立て続けていたが、俺がさっきまでいた空間を掴むようにしている。
それを見て「寂しそうだ」、なんて思うのは単なる俺の思い上がりなのか。

引き寄せた掛け布団を足元にセットし、俺は長太郎の元へ戻った。
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