鳳長太郎(腐)

□距離
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「鳳?」
一本早い電車に乗ると、鳳を見つけた。1年生ながら高身長を武器にサーブを磨く彼は、次期レギュラー候補と噂である。そういえば一対一で話したことがなかったので、登校がてら話そうと声をかけようとした。

しかし鳳はなにやらそわそわしており、急いでるサラリーマン達に押されながらも決して歩みを早めない。
ちょっと背伸びをして様子を見ると、彼の視点の先の宍戸に気づいた。宍戸に追いつかないように、でも距離を空けないように歩いている。

ーなるほど。

後ろから追いつき、鳳の肩に手を置いた。ビクッと跳ね上がる背中。
「滝先輩?!」
「鳳、おはよう。びっくりした?」
「はい…」
突然ハッとして宍戸を目で探す鳳。
分かりやすいったらありゃしない。

「宍戸、見失っちゃったね」
「?!」
まんまるの目を俺に向ける鳳。
「ごめんね、鳳」
放心状態の鳳にクスリと笑いかける。
鳳は優しいから、謝ったら許してくれるはず。
「宍戸のこと、好き?」
「?!」
鳳はさっきから体をこわばらせたままで、目をぱちくりさせている。
ちょっと意地悪が過ぎたかな。
「立ち話もなんだし、歩こうか」
「…はい」

改札を出てしばらく無言が続く。
「鳳」
「はいっ!」
そんなに緊張しなくても。
「毎朝宍戸を追いかけてるの?」
「追いかけてなんかっ、いませんっ!」
顔を真っ赤にして必死で否定する鳳。でも、目には涙が浮かんでいる。
「…声、かけたらいいのに。宍戸も鳳のこと特別目にかけてるし」
鳳は俯いて首を降った。
「そんなことないです。宍戸先輩は誰にでも優しいから、特別だとか思うのは俺の勘違いだと思うので。それに…」
「それに?」
「気持ち悪い、と思われるから」
「なんで?」
「俺みたいなあんまり話したことない後輩にいきなり声をかけられたら、気持ち悪いと思われちゃいますよ」
なるほどそうきたか。
なら俺も意地悪にいくよ。
「ふーん、じゃあ俺は気持ち悪い?」
「?!」
鳳はさっきと同じように目をまんまるに見開いて俺を見つめる。
「気持ち悪くなんてないです!」
一生懸命弁明しようとする鳳。
「俺も鳳に声掛けたの初めてじゃない?」

「っ!それは…」
ハッとして口を抑える鳳。ミュージカルみたいな大振りな動きに、思わず笑ってしまう。
「あははっ!」
「なんで笑ってるんですか?滝先輩の意地悪…」
頬を膨らませてむくれる鳳。
表情豊かなところは宍戸にそっくりだ。宍戸もぶっきらぼうなだけに見えて、笑ったり怒ったり俺から見るたび顔が違う。案外お似合いかも。

「ねぇ、鳳」
「なんですか?」
「走るよ。んで宍戸に追いついて、挨拶する。今日はそこまで」
「そんなぁ!」
急に立ち止まる鳳の背中を無理矢理押しながら、宍戸の名を叫んだ。
「おーい、宍戸!鳳が話あるってー!」
何メートルか先の宍戸が振り向いた。
「鳳?」
「うわぁっ!」
おっといけね。強く押しすぎた。
鳳は宍戸に激突し、といっても体格差的には宍戸が鳳に激突した。
「…っ痛てぇ!何してんだ、鳳!」
「すみません、宍戸先輩…」
ちょっと悪いことしちゃったな。
二人に謝ろうと慌てて駆け寄る。

「ちっ。そういうことかよ。滝の野郎に押されたんだな」
「ごめん。宍戸、鳳」
「ったく。鳳、怪我はねぇか」
「俺なら大丈夫です、宍戸先輩!」
「おう、なら良かったぜ」
ふう、鳳も怒ってないし、宍戸の機嫌が治って良かったとホッとしたその時。

「宍戸先輩、あの」
「なんだ、鳳」
「あの、おはようございます!」
「ちっ、何だそれ。おはよ」
「俺、毎朝挨拶してもいいですか」
やるねー。鳳が珍しく積極的だ。
「変なやつだな、いいぜ。俺は朝早いから、鳳も早起きしろよ」
「はい、宍戸先輩!」
鳳の顔がぱっと晴れやかになり、全身から喜びが溢れているのが見える。
やれやれ、雨降って地固まる…か。
なんて思っていると、不意に宍戸がニヤリとしてこっちを向いた。

「おい滝、お前のことは許してねぇぞ」
「ごめんってば」
「罰として、お前も毎朝この時間に来い」
はぁ、ヘアセットの時間が短くなっちゃうしなぁ。
「俺より可愛い鳳の挨拶の方が嬉しいくせに」
「…っ、誰がんなこと!」
ってあれ?顔が赤いよ。もしかして宍戸も…。ふーん。

二人の距離、これからも測らせてもらうよ。
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