鳳長太郎(腐)

□あなたのために
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「鳳弁護士事務所、か」

32歳で独立して掲げた看板を見上げて感慨にふけってから、はや2年が経つ。

幸い仕事は順調に来ており、定刻に今日も事務所を閉めようとした。
その時だった。

バタン、と勢いよく扉が開く。
「長太郎!」

10年前の同窓会以来会っていなかった、宍戸さんが立っていた。

「宍戸さん!お久しぶりです」

一日気を張っていた分の疲れが吹き飛ぶほど、懐かしく嬉しい訪問。
駆け寄って手を握る俺。

「何度も連絡していたのに、どうして出てくれなかったんですか?住所や電話、変えちゃいました?」
会えた喜びで、思わず質問攻めしてしまう。

しかし俺の喜びとは裏腹に、宍戸さんの表情は曇っている。
「宍戸さん?」
「わりいな、用があってきた」

深刻な面持ちから、ただ事ではないことが分かる。仕事仲間を早めに帰らせ、宍戸さんをソファーに案内する。

「単刀直入に言うぜ。俺、借金1000万円作っちまったんだけど返せる自信ねぇんだよ。」

…なるほど。それで俺を訪ねてきたのか。宍戸さんは切羽詰まっている様子だが、こちらはそういう案件を月に何回も受け持っている。やることは同じだ。

「分かりました、自己破産の手続きは俺がします」
「っ、いいのか?」
「はい、宍戸さん次第では1ヶ月ほどで終わりますので心配しないでください」
宍戸さんは目に見えてホッとした顔をした。喜んでくれたのが嬉しくて、じんと心が暖かくなる。

「そうだ、謝礼金とかかかる金はどうしたらいい?俺それさえも出せねぇかも…」
「相談に来られる方は大体そうですよ。でも費用は安く済ませることもできますし、宍戸さんの場合謝礼金は後払いでも構いませんし」
「ほんとか、助かるぜ」

この日、宍戸さんはそのまま家に帰ったようだった。
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