鳳長太郎(腐)

□俺たちの特訓
1ページ/5ページ

まだ朝なのに電車を降りるやいなや額に汗が滲んでくる。気がつけばもう6月中旬、衣替えの季節だなぁなんて思いながら俺は部室に向かった。

隣の部室はもう電気がついている。宍戸先輩は最近いつも一番乗りだ。そう、不動峰の部長に負けてから。
監督の意向だから仕方ないのかもしれないけど、2年の俺なんかがレギュラーで本当にいいのかな。なんだか急に自信がなくなってしまう。

そんなことを思いながら俺が着替えを済ませて部室を出ると、もうコートにいるはずの宍戸先輩が立っていた。

「おい、鳳。ちょっといいか。」
「はい、どうぞ」

びっくりして間髪入れずに答えてしまって、ちょっと恥ずかしい。

「急に言われてびっくりさせちまうだろうけどよぉ、俺の特訓に付き合ってくれねぇか」

さっぱりとしたいつもの宍戸先輩らしくない、切羽詰まった様子に俺は一瞬動揺しつつも、ただ
「わかりました」
と答えていた。

宍戸先輩は断られると思っていたのか、目を丸くして
「えっ本当にいいのか?お前には何のメリットもねぇぞ?本当か?」
と何度も確認していた。

俺が断るだろうって思われてたのはちょっと心外な気もするけど、口には出さずに笑顔で頷いてみせた。

正直俺は宍戸先輩のことをそこまでよく知らないし、宍戸先輩も俺のことはよく知らないだろう。
でも、赤ちゃんを助けた先輩や、小・中・高・大交流会で緊張する俺のそばにずっといてくれた先輩、俺がレギュラーになったときも喜んでくれた先輩。俺の中の宍戸先輩はいつも安心をくれたから。

今度は俺が何が返す番だから。

「んじゃ、練習終わって夜22時に〇〇テニスコートに来れるか?」

夜の10時はちょっと遅いなとは思うが、一度引き受けてしまったからなんとしても家族を説得しようと決意した。

「わかりました。では今晩行きますね。」
「ありがとよ、じゃ、朝練行こーぜ」

「はい!」
俺はいつもの宍戸先輩を追ってコートへ出た。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ